MASANOBU IN PARIS,1990
写真・文:大内正伸


プロローグ旅立ち建築、寺院ルーブル美術館市場街並、彫刻ロダン、モロー
|カフェ、人|ポンピドゥセンター大道芸人クリシー通り帰国



*****




カフェ、人、空気


ホテルを出てセーヌ川に沿って歩き、エッフェル塔の下をくぐった。
その先に続くシャン・ド・マルス公園をのんびり歩いた。朝のジョギングに精を出すパリジェンヌ。
犬を散歩させる老人。芝生とプラタナス並木がずっと続く。

主人が棒切れを放り投げ、それを追って芝生の上をコリーが駆け抜けていく。
グリーンの奥に白い裸体彫刻が見え、
その向こうには並木ごしに古い建物が見える。

建物のファサードの表情が面白くて、写真を撮り続けたりする。





公園を抜けて、交差点にあるカフェに入った。

テーブルに座ってエスプレッソを注文する。斜め前の席に女性2人と子どもがいて、
奥のカウンターに何人かいるだけで空いている。エスプレッソは美味しかった。
かわいいデミカップに紙に包まれた角砂糖がついてくる。苦みとともにコクがやってきて、
独特の香りが鼻孔に抜けていく。





おばさんが入ってきて僕の先隣に座り、タバコに火をつける。
店の中には花のような香りが流れていて(これは女性たちの香水の匂いなのだろうが・・・)、
それとタバコの煙とエスプレッソの香りが次々に流れ、
朝の柔らかな陽射しの中でとけ合って鼻をくすぐっていく。
香りの質が、何か日本とは根本的にちがっているような感じなのだ。





パリのカフェにはレジというものがない。
ギャルソンに直接お金を払うとレシートを破いてくれる。
ちょっとギョッとする仕草だが、その破れたレシートがあることが、払った印(しるし)だ。
レシートといっても、本当に小さな紙片のレシートである。








前へ次へ