MASANOBU IN PARIS,1990
写真・文:大内正伸
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建築、寺院
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空港からのバスが、市内の外周道路に入ったようだった。
エッフェル塔が見え、モンパルナス・タワーが見える。夕暮れてきて、
街に灯りが輝きはじめている。右手にブローニュの森をかすめるとバスはぐいと反対側に曲がった。
入ったとたんパリを見た。
胸を突いてきたのは、次々に現れる建築だ。
それが何かなまめかしい巨大な生き物のように見え、
その乳白色の建築と街路樹の黒とのコントラストが一種異様な、
異様だが温かい感動を吹き込んでくる。
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カフェの道路の向かいの建築の、アールヌーボーの有機曲線や、
螺旋や、放射状の線が、なぜか心をわくわくさせる。
石の建築と分厚い木のドアの組み合わせは、不思議にしっくりと合っている。
そして、装飾曲線を加えた鉄柵がそれに良い味を加えている。
パリで建築に感動するなんで予想していなかったので、驚いている。
ノートルダム寺院はパリの中心部にある名所で、観光客も多かった。
中は無料で見学できる。外観も凄いが中はさらに荘厳である。
いまでも現役の寺院として機能しているわけだが、
ローソクが各所に灯り、並べられた木のイスは黒光りしている。
石積みのアーチで天井が作られている、とガイド氏が説明してくれるが、
理論的には理解できても、感覚的には石積みアーチというのはピンとこない。
説明を聞いたとたん、天井が今にも落ちてきそうな気がするのだ。
ひんやりした、というより凛とした空気が寺院の内部にみなぎっていて、
そしてステンドグラスが見事だった。
外から窓を眺めるとすすけたカサブタのようにしか見えないのだが、
中に入ると石の寺院の暗さが外部からの自然光を強烈なものにして、
ステンドグラスが鮮やかに発光するのである。