MASANOBU IN PARIS,1990
写真・文:大内正伸


プロローグ|旅立ち|建築、寺院ルーブル美術館市場街並、彫刻ロダン、モロー
カフェ、人ポンピドゥセンター大道芸人クリシー通り帰国


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旅立ち





眼下の雪原に直進する道が見え始め、都市が確認できる。
工場群のようなものが見え、赤い点が光っている。いま、ロシアの上を空飛んでいるのだ、
と思ってみても、実感としては2割くらいしか、意識が追いついてこない。

ジュラルミンの円筒に閉じ込められ、密封されたまま空に出れば後は、
それに身をゆだねるしかない。その意味でも、スチュワーデスの存在は重要(?)なのかもしれない。

マティーニを頼むとピメント入りのオリーブがちゃんと入っている。が、
ついてきたオツマミが「柿のタネ」なのが可笑しい。

フィンランドの辺りか、雪の無い陸地が見え始める。
機体の下の雲が2層に分かれて、それが斜めからの太陽光に輝いている。
小さな飛行機がずいぶん下を飛んでいった。

デンマークをかすめ、オランダの海岸線をみる。森と赤い屋根の民家。
鉄道と畑。所々に密集する家々。高度を下げ始めた。

整然と区画された農地に道がくっきりと見える。日本のように道に沿って民家が散在することなく、
集落と森とが、ひと塊になって次々と現れる。森の外周も直線的にカットされている。
赤っぽいクリーム色、淡いグリーンの畑のモザイクがきれいだ。

シートベルトをしめる。道路を走る車がみえる。
家の窓、工場の煙突、鉄柵などがみるみる近づく。
そうして滑走路が見えた。



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