MASANOBU IN PARIS,1990
写真・文:大内正伸
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パリの市場
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食料品店の並びをみつけた。
魚屋には殻付きの牡蠣や
店内に入るとタラなどが目についた。小さなエビも旨そうだ。
お次は八百屋。色とりどりの果物、ポワローネギ、チコリ、アーティチョーク。
様々なキノコの類。赤いピーマン、ナスやズッキーニにトマト。
店内の奥には香辛料の瓶がずらーっと並んでいる。
そして肉屋。天井からもも肉(たぶん生ハム)をぶら下げて値段がつけてある。
ウインドウの中の品揃えは豊富だ。
チーズ屋、つまりチーズだけを扱っている店があるのだ。
小型自動車のタイヤほどもあるものから、軟らかいもの、カビのついたもの、
穴の空いたもの、などなどあらゆる種類のチーズが山と積まれていて、
これが繁盛しているのである。
大通りに出て南にしばらく歩いた後、見当をつけて左手の路地に入っていく。
買い物のおばさんたちが列をつくっているパン屋をみつけたので、列に並び、フランスパンの小さいのを買う。
自分の番が来る。売り子のおばさんがけげんな顔をしつつ僕を見る。
「ムッスュー?(だんなさんは何かな?)」
僕は欲しいパンを指差して、親指を突き立て
「アン(1個)!」
と言い、ポケットから小銭をまさぐってそれだけでいいという雰囲気を伝え、
レジスターの数字を素早く読み取って金を払い、
「メルシー(ありがとう)」
と言って風のように店を出る。出口でつまづかないようにしながら。
そこからまた左手に車が入れぬ石畳の道があり、
路上に出店が広がっている本格的な朝市をやっている場所にぶつかった。
今度の肉屋は大きくて、ヒツジの脳みそまで売っていたりして内蔵類も豊富で、
皮を剥がれ内蔵を抜かれたウサギがフックに架けられ並んでいるのだった。
ハム屋さんのような店もあって、サラダや煮込みの類とか、
お惣菜もたくさん売っている。人気ある店らしく、店からはみ出るくらい人が並んでいる。
お客はおばさんが多いが、中には隠居した爺さん風なんかもいる。
魚屋も壮観だった。出店のものは一部の商品で、
店舗に入るともっといろいろなものが見れる。
カニやムール貝なんかがツヤツヤと旨そうに、海藻の上にドサッと並べてある。
もちろんシタビラメもあった。メバルやホウボウ、高級魚マトウダイもいた。
ブラウントラウトに似たマスもいて、昔ルアー釣りをやっていたことがある僕は心躍ったが、
顔つきや尻尾の具合からして養殖魚のようだった。
しかし朝から活気がある。聞けばこのような市場はパリ市内いたるところにあるというから驚きだ。
同じように紙にくるんだパンをかじりながら歩いている女の子にすれちがう。
それがとても可愛らしいパリジェンヌなのだ。
僕も安心して、ムシャムシャパンをかじりながら歩くのであった。
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