WEB版「神流アトリエの山暮らし」
絵と文:大内正伸
写真:大内正伸+川本百合子
※雑誌『現代農業』に連載した「山暮らし再生プロジェクト」
('05.3〜'06.3)に加筆し、WEB用に再編したものです
▼敷地、全体図
森をきっかけに、移住する
僕の初めての商業出版の著作は、画集でも絵本でもなく、林業技術書だった。
人工林再生への新しい取り組みを紹介した間伐の講習会を、群馬県の旧鬼石町で行なったのが、その始まり。
神流川流域にたくさんの友人ができた。
ご多分に漏れず、そこもまた山村の暮らしが崩壊しつつあり、空家がたくさんある。
2004年の9月、僕は東京の家を出て、その一軒に移住した。
借りた古民家は築100年。地続きで石垣に守られた畑があり、人工林と雑木林もある。
買い物のできる町までは車で30分程度。家まで車で上がれないので、
下の道路から人力で荷上げしなければならない。
そんな不便さを除けば、ここは変化に富んだすばらしい場所である。
森と暮らしをアートをむずぶ、人生の最終目標の生活。
理想を掲げてここを「神流アトリエ」と名付けた。
赤い屋根が僕らのアトリエ。お隣は70代のIさん一人住まい
何もない暮らしから
僕の持ち物は仕事道具と衣類、車が1台。
あとは学生時代からすっかり馴染んでいるキャンプ道具が頼り。
四国からやってきた相方のYKも同じようなもの。
しかし日本は裕福というかなんというか、周囲に「要らなくて捨てるもの」がたくさんあって、
それを貰いに行ったりしているだけで、1年もたたず、なんとか生活できる程度の必需品は揃ってしまった。
仕事もまた、インターネット、FAX、宅急便などのおかげで
思いのほか支障はおきなかった。
到着直後、雨の日は入り口の土間で炊事
放置された場所
家は2年ほど空家だった。
前住者もまた、借家で20年以上住んでいたらしいが、2階は閉じられたままだった。
そこには火鉢や羽釜、机や食器棚など、まだまだ使えそうなものが埃にまみれ置かれていた。
敷地の中の樹木に関しては、ほとんど手入れが遅れているように見えた。
畑にはすでにカヤが繁っており、屋敷林のシラカシは屋根に覆いかぶさらんとしていた。
湿潤温暖な日本の山村で畑や敷地を放置すれば
「1年で草ぼうぼう」「2年で薮」「3年でちょっとした林」になるのである。
家の改修や敷地の手入れだけで、初めての冬の薪は確保できそうだった。
2階の道具類を含めれば、そこは素材の宝庫でもあった。
写真左、放置されていた畑敷地。右、家にシラカシの大樹がかぶさる
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