WEB版「神流アトリエの山暮らし」/絵と文:大内正伸/写真:大内正伸+川本百合子
全体図屋敷石垣水道トイレと排水|カマド|囲炉裏



▼カマド




台所が最も長く居たい場所に

   九月に越してきてから十一月初めまで、僕たちは庭先で鉄の小型カマド「ちびカマ君」を使って食事を作った。
ちびカマ君はは簡単に移動でき、直火での調理に便利だった。周囲の山を歩けば倒木や枯れ枝はいくらでも拾えた。
燃料革命以後、山村でも薪を炊事に使う家はほとんどなくなったからである。

 ちびカマ君はとある工場の蔵の解体現場からやってきた。
そして、実はこの時、部品が壊れたまま放置されていた大きなカマドも貰ってきた。
 大きなカマドは煙突をつけられる穴があり、上部を密閉すれば薪ストーブに使えそうたった。
ちょうど手元にあった「ドラム缶(ステンレス製)」の蓋を上にのせたらぴったりサイズが合った。
僕らは改装プランが決まらず未完のままだった台所の角に、この大形カマドを設置することにしたのである。

 煙突工事は初めてだったが、自分たちでやった。
おそるおそる点火した炎の煙が煙突の穴に引き込まれていく。
薪の火が赤々と灯ったときの感動を忘れることができない。アトリエで最も居心地の悪かった台所が、
「最も長く居たい場所」に劇的に変わった瞬間であった。



マッキー君に炎が灯る


 この薪ストーブには欠点もあった。燃焼室が大きいため、とにかく大量の薪を喰う。
鉄板に厚みがないので暖房効率もよくなかった。
しかし、天板の大きな平面は直火ほどの火力はないまでも調理には便利だし、なんといっても焚き口から炎が直接眺められるのが魅力だった。
僕らはこのカマド・ストーブを「薪を喰らう」「蔵からやってきた」ことから
マキクラ君、通称「マッキー君」と呼び、その冬は毎日のように暖と食事を共にした。



 




薪の匂いと暖かさが幸福感を誘う

    朝、まず前日の灰をかき出すことからマッキー君との一日が始まる。
次いでスギの枯葉や紙ゴミを使って点火。
細い小枝、太い枯れ枝、割った薪、と順に入れていく。

い薪が勢いよく燃える頃には、土間の台所全体が暖かくなっている。
そして天板にかけられた鍋の湯が沸きはじめる。

 燃焼室が大きくシンプルな構造は「何でも大量に燃やせる」という利点もある。
夏の終わりにこの古民家を訪れたとき、敷地の防風林や庭木は伸び放題で、
まるで緑のジャングルのようであった。家と石垣の保全のために樹木の剪定を始めると、大量の木質ゴミが出る。
また、台所の改装でも廃材が大量に出た。これらをマッキー君は簡単に飲み込んでくれる。



ちびカマ君とマッキ−君


 朝起きると「はやくマッキーに火を灯したい」と思うほど薪の炎には魅力がある。
外からマッキー君の燃える部屋に入るときの、薪の匂いと暖かさは幸福感を誘う。
沢の水と薪の火で調理した料理の透き通った美味しさがまたすばらしい。もちろん燃料代はタダだ。

 大量の薪を使えば大量の熾き炭ができる。
僕らは食事の後、マッキー君の中の熾き炭を和室に移し変え、火鉢に使っている。
熾き炭は水につけて消してから保存することもできる(「火消し壷」があれば火がついたまま蓋をすればよく、さらに便利)。
夏は涼しい古民家だから、囲炉裏部屋が完成したら、そこで熾き炭の調理を楽しもうと思っている。

 灰もふるいにかけて畑の肥料用に保存している。薪を余すところなく使えば、薪づくりも苦にならない。




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