WEB版「神流アトリエの山暮らし」/絵と文:大内正伸/写真:大内正伸+川本百合子
|全体図|屋敷|石垣|畑|水道|トイレと排水|カマド|囲炉裏|
▼トイレと排水
屎尿処理の今昔
僕らの住む集落は国道からかなり登った所にあるので公共下水道が存在しない。最近は浄化槽を使う家も出てきたが、
生活排水は沢への自然放水、屎尿はバキュームカーによる汲み取りという家が多い。
アトリエの古民家も汲み取り式トイレだが、ここは車道から離れているので自家処理しなければならない。
それが越してきてすぐの悩みの種だった。
屎尿はかつて貴重な肥料で、群馬の近郊養蚕農家では町場のそれを金で買い取り、
蚕糞と合わせて半年ほど寝かせた後、畑の肥料に使っていたという。畑に使わないまでも、野に散布してしまう例もあったようだし、
大きな穴を掘って地面に浸透させていた所もあったようだ。
オガクズを利用したコンポスト型のトイレや、浅く配管して土壌の浄化力を利用する方法も知っていたが、
石が多い場所なので掘削工事が難しい。ともあれ僕らは、家から離れた場所に穴を掘って処理するのが妥当だと考えた。
自然分解力の驚き
現在の屎尿処理場では「活性汚泥法」といって、屎尿に空気を送り込んで微生物分解を行なっているところが多い。
これに習うなら穴を浅くし、屎尿をすみやかに分解する好気性微生物が棲みやすい環境をつくればいい。
そこで畑敷地の陽当たりがよい石垣の近くに、長方形の浅い穴を掘り、微生物の活着と表面積を増やすための工夫を施した。
そこに屎尿をバケツで運んで流し込み、木の蓋をした。
この方法は予想以上の効果を上げ、わずか数日でニオイも消えたほどだった。
アトリエの汲み取りトイレは、その升の大きさから、およそ一・五〜二ヶ月サイクルでこの作業が巡ってくる。
トイレで使用した紙は分解しにくいので、別に取り置いて燃やしている。
捨てる行為の正体が見える
自然力を活かすのはトイレだけではない。
ゴミは週一回、集積場に回収に来るが、紙は焚き付けとして自分たちで燃やすことが多い。
生ゴミは地中に浅く埋めれば、山の土は微生物や昆虫類が豊富なので分解は驚くほど早い
(有機物を分解する生き物たちは浅い表土の部分に集中して棲んでいる)。
ただし、大量に埋めると野生動物を誘因してしまう。これには食べ残しの少ない食生活をすればいい。
台所などの雑排水は、自然流下で水源のオーバーフローの水と合流し、細い溝を伝って沢に流れ落ちている。
石や砂、泥、落ち葉などの中をゆっくり流れていくので濾過機能があり、
水際の植物や水中の微生物が汚れを分解してくれる(ただし毒性のない自然分解性の高いせっけんを使うのが条件)。
たまった泥を取り出したり、水路際の草刈りなど掃除手間もかかるが、
ここでは沢の下流でワサビが自生し、サワガニが棲むほどになっている。
現代の生活では「捨てる」行為の行き場や正体がわからなくなっているが、山暮らしではそれがよく見える。
捨てる行為にさえ、自然と共にあることの喜びを感じられるから、ここは居心地がいい。■
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