WEB版「神流アトリエの山暮らし」/絵と文:大内正伸/写真:大内正伸+川本百合子
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▼水道
取水から排水まですべて自然流下
山暮らしの最大の魅力のひとつ、それは「毎日うまい水が飲めること」だ。
僕らの住む集落にはいくつもの湧き水や沢が流れており、古老たちは口をそろえて「ここの土地は水がいいから」と言う。
アトリエの畑地は二つの小沢にはさまれているが、その上部は水がしみ出てワサビが自生している場所もある。
ここより上流には民家はなく、沢水はそのまま手ですくって飲むことができる。
実際にこの沢水を直接水源としている家もあるが、僕らの借りている古民家の水源(三軒共同)は、
さらに上流の林道の上から黒パイプで引いたもので、地表に流れる前の湧き水を導いている。
アトリエでは、この最上級のミネラルウォーターを料理はもちろんのこと、
風呂にも洗濯にも使っているのである。その水の移動は、取水から排水まですべて自然流下で、
ポンプなどの動力は使っていない。山間部の傾斜をうまく利用しているのだ。
昔この地域では、節を抜いた孟宗竹を、配管や水樋に利用していたようだ。
これは耐久性がないので毎年新しいものと交換しなければならない。しかし今は「塩ビ管」がある。
これは木工用ノコギリで簡単に切ることができ、各径ごとに継手、曲管、T字管などが用意されており、
それらを接着剤でつなぐことができる。バーナーで炙れば管を曲げることもできる。
また、遠距離の導水には通称「黒パイプ」(ポリエチレンパイプ)が便利である。
ビニールホースより耐久性が高く、地面に露出したままカーブや段差を気にせず配管することができる。
塩ビ管と黒パイプの接続は専用のジョイントを使うと確実だ。
なにしろ水道代はタダなのだから
山水の使い方の注意点は大きく二つ。「水源の目詰まり」と「冬季の凍結」である。
自然の水源だから小石や砂や落ち葉が管を詰まらせることがある。
そこで取水口に網などかけるが、ときどきこの目詰まりゴミを取り除く作業が必要となる。
このゴミ取りも、その道のりで出会う季節の花や鳥たちを思えば楽しい。帰りに薪を拾ってくれば沢の掃除にもなる。
凍結すると、水の体積が増えるので管が破損する。管を地中に埋め、地上配管には断熱材を巻くと凍結しにくいが、
確実なのは蛇口から常に少量の水を流し続けることである。「ポタポタ」ではダメで、
各蛇口から直径三ミリ程度の水柱が落ちていれば僕らの地域ではまず凍ることはない。
なにしろ水道代はタダなのだから気にする必要はないのだ。
山水を料理に使うと、ご飯や汁もの、お茶、鍋、麺料理、などが驚くほど美味しくなる。
山暮らしの作業では、土やホコリまみれになることが多いが、清らかな洗い水は、身も心も浄化してくれる。
自然の水を使うようになると、必然的に水源の森の状態や、家からのゴミや排水にも気をつけるようになるものだ。
このように山水を楽しめる場所は、実は日本にはいくらでもある。
これほど降雨降雪量が多く、起伏と森林に恵まれた国は世界でも珍しい。
しかし、山水の本当のうまさとすばらしさに気付いている人は少ない。今は優れた配管素材があり、
暮らしに水を取り込むことが自在にできるようになったのに残念なことだ。■
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