WEB版「神流アトリエの山暮らし」/絵と文:大内正伸/写真:大内正伸+川本百合子
全体図屋敷|石垣|水道トイレと排水カマド囲炉裏



▼石垣




「三波石」の石垣

  斜面の敷地を造成し、土留めをするには、今は重機などの道具があり、
コンクリートなどの素材を使った様々な手法がある。
しかし、そんな便利なものがない昔、いったいどうやって積んだのか? と考えさせられるド迫力の石垣に屋敷は守られている。
道からのアプローチにも緩やかな弧を描いた石垣があり、畑地にも様々な石組をみることができる。

 ここ鬼石町は全国に知られる庭石「三波石」の産地で、近隣には石採取の跡地もある。石そのものが美しいのだが、
大小の自然石を巧みに組み合わせた垂直に近い石垣には、構造美にあふれた強烈な存在感がある。
 これらは土木構造物として機能しているだけではなく、様々な動植物の住処となって僕らを楽しませてくれる。

石垣の穴を隠れ家にする野ネズミを狙うヘビの出没はいただけないが、
地衣類からシダ、潅木、サボテンにいたるまで多様な植物と、それに集まる昆虫類は数多い。
濡れれば水を保ち、乾いて暖まれば保温される石の性質が、その自然な配置と相まって多彩な生息空間をつくるのだ。


 
弧を描く2段の石垣が屋敷へ続く。人工林の中の石垣、かつての畑跡地


先人の手入れを引き継ぐ

   この集落の石垣群は、地山を開拓して居住地と畑を造成したときに造られたものだから、
すでに数百年の時を経ている。もともと岩石地なので、畑地を造成するとき、手ごろな石が出る。
それを集めながら、切り土盛り土のバランスと、水路・道などの構成を考えながら組み上げていったのだろう。
割った石もあるにちがいないが、中には動かせないほどの大岩があって、その一部が石垣に組み込まれている場所もある。

 石垣は石の組み方も大事だが、山側に入り込む石の角度も重要で、
滑りを防ぐには一番下の地中にもぐり込んだ「根石」の深度や大きさが大切という。
また水はけのために石垣の裏には小石がたくさん入れられている。

 これらの石垣は、過去の人々の手入れを経てここに在る。
石のすき間や天端に生えた植物を刈り込むことで根による侵食を防ぎ、内部の土が雨で流れ、
天端の裏に窪みができればそこに小石を補給する。アトリエ敷地の石垣では、
逆にシラカシの大樹が天端を占拠し、
長い根を石垣に打ち込んで土留めの強固さに一役かっている。




いま、石も活躍中

  崩れれば石が転がり、下の家に危険をおよぼす。
また土が流れれば上流の石垣の基礎を脅かすことにもなりかねない。
斜面を連続する石垣は集落共有の財産であり、これなくして住まいも畑も成り立たない。

後日、僕らは石垣補修の手伝いをする機会を得た。
そこはお隣に住むIさんの敷地なのだが、僕らも使わせてもらっている共通の道に土石が崩れたのだ。
 この地方でゴズと呼ぶ「裏込め石」と、表側に使う大きめの石を選り分けながら、
丁寧に積み上げていくIさんの見事な手腕を、間近に観察することができた。
 
 そんな石垣を構成する石は、暮らしに便利な素材でもある。
様々な重石として使え、花壇や畑に置くだけで境界を表現できる。
その耐火・蓄熱効果から、カマドや石窯、薪ストーブの土台、周りの内装にも利用できる。

多くの古民家は礎石の上に柱を立てる方法で造られている。
 風雪に打たれても変わることなく立ち続ける石は、昔から碑や塔になり道々の辻に置かれ、
大樹とともに大岩は霊力ある聖なるものとして祀られた。

いま山にきて、暮らしのかたわらにある石の存在を強く感じている。




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実践、石垣積み2008
〜高さ2m、幅5mの石垣を積んだ記録〜
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