『ゆるり』Vol.1春号(ダイヤモンド社/2003.6)



週末の達人「燻製作り
イラスト・文/大内正伸








週末の手づくりで「本物」をゆっくり味わう

 今回燻製づくりを指導してくれるのは神奈川県横浜市郊外に住む木村圭輔さん(58歳)。木村さんはエンジニア系の会社員だが、その忙しい日常の中で、日曜大工、アマチュア無線、畑で野菜づくり、料理、となんでもこなす週末の達人である。自宅にはパソコンで設計して自作した小型ボートまであるのだが、その素材の多くは近所で手に入るごく普通のものだ。
 台所には自家製の塩蔵品が多数あり、木村さんは手づくりビールまで挑戦しているのだった。どうやら保存食や発酵食品をとくに愛されている様子。
「おかずや酒の肴をつくっているようなモンだよ。本来、不精な性格だから、保存のきくものがいい」
 なるほど。酒の肴が目的なら今回の「燻製」はピッタリだ。家の近所に畑を借り、自ら収穫した野菜を日常食べている木村さんである。市販の加工食品じゃ満足できまい。
 本物の塩蔵品は時間とともに熟成の度を深め、微妙に味を変えていく。発酵食品などは、まさしく生き物だからこそ、その芳香もまたすばらしい。
「週末に仕込んで、ゆっくり味わう。自分でつくれば安いもの。これを楽しみにしている仲間もいるからね」
 そんな木村さんと仲間たちに、週末の燻製づくりを教わった。








下準備に時間をかけ、煙で驚きの素材変身

 燻製づくりはまず素材の下ごしらえから始まる。基本的には「塩漬け」「塩抜き」「乾燥」の行程を経て「燻煙」に入る。塩漬けと同時に調味料で味と香りに変化をつけ、素材の臭みをとる。例外はゆで卵とチーズで、これはそのまま燻製鍋にかけることができる。生イカなどは、軽く味をつけ塩抜きの行程を省いてよい。
 面倒に思える「塩漬け・塩抜き」は、大きめの素材の場合、中まで均一に塩を通すために不可欠なのだそうだ。
「とくに『塩抜き』での味見が大切だね。乾燥の過程でやや塩味がしまってくるので辛すぎはダメ」
 完成品の味を想像し、やや薄めに塩味を決めるのがポイントだ。
 乾燥は秋冬なら風にあてて陰干しする。夏とその前後は冷蔵庫を使うのが無難(ただし乾燥には時間がかかる)。裸でザルなどに載せ、入れておく。
 燻製で最も大切なのは、実はこの燻製前に下準備だ。そうして翌週末、いよいよハイライトの燻す作業に入る。
 今回は、ゆで卵とイカを「温燻」、鮭を「冷燻」にかけてもらった。この名称は燻煙処理するときの温度により分類で、素材によって向き不向きがあり、道具もそれに見合ったものを用いる。
 熱燻と温燻には木片を砕いた市販のスモークチップを使う。スモークウッドというのは木の粉を棒状に固めたもので、火をつけるとお線香のようにずっと煙を出し続け、温度も上がらないので冷燻に向く。
 煙は素材の防腐効果を高めるとともに、素材の味を鮮やかに変えてしまう。燻製完成後も、数時間から数日寝かせることによって味が深まる、
「鮭の燻製は冷蔵庫の中に塊のまま保存して、かびが生えたら水洗いしてまた風に当てて乾燥すれば、最後はかちかちになるまで3〜4ヶ月は楽しめます」
 まるで鰹節の製法のようである(バーボンに合いそう!)。
 なお「熱燻」は中華鍋と家庭のコンロでもできるが、煙の臭いは強烈に部屋にこもる。十分ご注意を!




text & illustration by Masanobu Ohuchi




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