鋸谷茂『間伐講議/2001.6.16』
主催:森づくりフォーラム 於:東京都あきる野市『止水荘』
『Ogaya's Kanbatsu method──The new forestry technique 』lecture by Sigeru Ogaya


 皆さんおはようございます。ただいまご紹介にあずかりました鋸谷でございます。 
 今日は私の提唱する林業の話、とくに「間伐」の話をさせていただきたいと思います。
                 
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 私は自分で山林を所有する他に、仕事として福井県の林業改良指導員、あるいは林業専門技術員という仕事にたずさわっておりまして、以前から森林施業のやりかたというものに対して、常づね疑問を感じておりました。
 まず、木材というのは、人間が使い勝手がいいように、非常に変型した形で育てているものでございます。それがはたしていいのかどうか? そういうことで疑問を感じておりました。木材が順調に使われているときであれば、それでもいいのでしょうけれども、今のように木材が非常にダブついてきた状態になったときに、それではうまく成り立っていかない、それは当然のことでありまして、やはり本来の育て方、林業本来の技術というものに戻るべきではないか、というようなことを感じておりました。
 同時に「下刈り」あるいは「雪起こし」「間伐」「枝打ち」「植栽」そのもの、そういうものを、やはり根本から見直すべきではないか? ということで、私が10代の時からそれなりに研究というか実験というか、そういうものをやってまいりました。
 本格的に一般の林家、あるいは一つの地域に対して普及を始めたのは今から6年前でございます。それは福井県の大飯町(おおいちょう)という所でございます。原子力発電所がたくさんある所なんですが、そこで始めまして、林家の方、森林組合の職員の方、あるいは作業班の方、それを取り巻くわれわれの同業者、いわゆる林業改良指導員、まあこういう関係者がですね、同じ目的意識を持たないとなかなか新しいものというのはできないものでございます。たまたま、協力者が得られましたので、うまく取り組むことができました。
 取り組み始めまして、山が良くなるのは当然でございます。山が良くなるのは当然でございますが、その作業効率ですね。1年間通しました1人の作業班の作業効率でいいますと、毎年20%、少ないときでも15%くらい、3年間で連続して効率が上がってまいりました。効率が上がるということは、当然作業班の賃金として反映してくるわけでございまして、3年間、毎年平均100万円ずつアップしてきたのです。ですから、トータルでどのくらいアップしたかは申し上げませんけれども、だいたいご想像いただければと思います。
 私は、とくに山で働いておられる方、この方の社会的地位というものを絶対的に上げなければいけない、という信念を持っております。われわれ公務員のような人間はですね、どうも山で働く人を見下げるような意識をもっている、というのが現実でございまして、それを根本的に変えたい。少なくとも、所得は最低で年間500万円は保証、まあ経験年数でいえば2年から3年の経験年数があればですね、まあ私どものやり方であれば500万円は最低保証できます。プラスアルファは1.5倍から2倍くらいまでの範囲で、というやり方で仕事をしていただいております。
 ですから私が取り組み始めてわずか6年でございますけれども、作業班の方が、最近は家を建てるようになりました。年間、自分たちの所得がですね、300万円多く入るということになりますと、10年たてば家が建つな、と。こういう計算ができるわけでございます。やはりそこが山を良くしていく根本的なところじゃないかな、と私は思っておりまして、そのように取り組んでまいりました。
 そのような取り組みを、今日は具体的にご紹介したいと思います。今日は2時間の時間をいただいておりますけれども、まず最初の30分強は林業そのものはどういう状態なのか、というようなお話をさせていただきたいと思います。その後、今日の課題の「間伐」というものに対する取り組み方、考え方のお話をさせていただきたいと思います。申し訳ないんですけれども、連続して2時間やらせていただきたいと思います。トイレに行きたくなった方はご自由に行って下さい。足も伸ばして聞いてください。ここはタバコも許されるようですので、隣近所に迷惑のかからない程度にお願いしたいと思います。

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 まず、林業に対する考え方ですけれども、一般的にですね、やはり日本の林業というのは、本来儲かる産業ではなかった、ということを今一度認識していただきたい。たとえば江戸とか京都とか大阪とか、こういう都市近郊、従来からの都市近郊の林業地域、あるいは天然林、天然のスギ・ヒノキがあった地域、こういう所ではたしかに儲かる産業であった。ところがその他の一般のところでは、山を持っているだけで負債だった、というような状況が、ごくごく最近まであったわけでございます。私たちの所でもそうです。奥山を持っている、標高1000m、2000mに近いような所の山を持っている人はですね、昭和の20年代30年代、このときに、木材がどんどんチップとして売れるようになりました。そのときでも、もう山なんかいらない、だから「買ってくれ」と言って、国有林がどんどん買いました。で、国有林はそれを買って、立木だけを売れば、土地代はタダになったわけです。そんなことで、国有林もどんどん土地を買ったわけです。それぐらい林業というのは一般の人にとっては儲かる産業ではなかった。
 こちらのような西多摩地域の山では、おそらく江戸の大火などの「特需」が定期的にあったわけですね。だから、そういうところでうまく経済性が出てきて、儲かる商売であったのかもしれません。一般的に言えば儲かる産業ではなかった、ということです。
 それが現在、今日、従来儲かる所も儲からなくなってしまった。これは、まあ一般的なところへ帰った、ということで、決して特殊な事情ではないと、私は今の状況を考えております。林業そのものが成り立っていったいきさつなんかを見ましても、林業の投資というのは「余剰労力」「余剰資本」こういうものを投下した、その蓄積がある所が林業として成り立ってきた。
 例えば天竜なんかそうなんですが、杉林があったらですね、それをそのすべてを伐採せずに、1割から2割くらい残して、その残し木がいちばん金になって、天竜の林業地をつくった、というような歴史もあるわけです。農業でも林業でもそうなんですが、これは蓄積経済なんです。消費経済ではございません。ずーっと積み重ねていって、ある一定の水準になった時に、初めて産業として成り立つわけです。
 今の日本の林業というのは、戦後の木材特需ですね、戦争によって住宅が壊滅的に焼かれました。それに伴う特需があったために、どんどん木を伐った。儲かるからまた木を植えよう。天皇みずからが全国行脚して木を植えさせた。もう神話に近い木の植え方です。それによって1000万haというような膨大な人工林ができたわけです。これが今、元の状態に、特需がなくなって、普通の状態に戻った。普通の状態に戻っただけなのに「もう林業は儲からない」とみんな言っているわけですけれども、決してそうじゃないんです。本来儲かるものじゃない。
 だいいち林業というのは「金利経済」が成り立たないのです。たまたま昭和20年から40年後半、あるいは50年前半にかけて、たとえば100万円を林業に投資したら年間6%とか8%とかの金利がついて、将来帰ってくる、という計算が成り立ったわけです。ところが今そういう計算は絶対成り立たないですね。林野庁は0コンマ何%儲かるなど数字を出していますけれども、とんでもないです。これは完全に赤字でございます(笑)。100万円投資したら、計算上ですよ、60年たったら100万円が80万なり70万円になっているわけです。それが現実です。しかし本来そういうものなのです。「余剰労力」「余剰資本」を投下していたから、投資を0に見て、儲かる儲からないの話をしていた。
 それともう一つは、林業というのは経済変働・経済システムが切り替わったときに、相対的にボンと価値が上がるわけです。たとえば明治維新とか、あるいは最近ですと戦後ですね。林業というのは延々と同じレベルで来るわけですけれども、戦後のいわゆる社会経済システムが変わったときに、経済の変動でドンと一般的なものが下がるから、相対的に高く見える、というだけのものです。それが従来は60年とか100年くらいのサイクルの中で変わってきたわけで、(江戸などの)都市周辺においてはそれがもっと小さなサイクルの中で成り立っていた。というようなところじゃないかな、と私は考えているわけですけれども、私は学者じゃございませんので「おまえバカ言ってるな」という方もたくさんいらっしゃるかもしれません(笑)。
 
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 では、どんな森をつくっていったらいいのか? という話に移ります。いま森づくりに対して林野庁などがどんどん「こうあるべきだ」というようなことを出しているわけですけれども、80年100年のものをつくっているのにもかかわらず、林野庁は2年か3年に一度ずつ方向を変えていくわけです。私も行政の中にいる人間でございますけれども、日本全国どっちの方向を向いたらいいのかというのがさっぱり分からない。戦後の昭和20年代から40年代にかけての「とにかく木を植えよう」ということだけがひと世代続いたわけです。それから後というのは、もう林業がダメだと言い始めた昭和50年代半ばからですね、2〜3年ごとにコロコロ変わっているわけです。最後には、森林ボランティアの皆さんにお願いしてなんとかしようかと、一生懸命やっているわけですけれども。
 では森林ボランティアの方々がどういう山づくりをしたらいいのか? という方向性はまったく示していないわけです。従来の間伐のやり方、従来の木の植え方をやればいいのじゃないだろうか、というようなところです。こういう山づくりをしようという方向性が全然見えない。
 そこで、私がこれから申し上げるような山づくりをすればいいのじゃないかな、というのが私のお話しでございます。

 まず、今の人工林でございますけれども、現在の人工林というのは先ほども申し上げました通り、人間が利用しやすいために「太く、長く、より多く」つくることだけを考えてきた。この考え方というのは、農業的な発想なんですね。山を畑と考えて、畑にダイコンをつくるように、より太く、より長く、より多く、採ることだけを考えてきたのです。
 では、畑というのはどういう状態かというと、ダイコンだけがあって、他のものはすべて「悪」でございます。雑草は1本も生えさせない。今でも田んぼはそうですね。農業というのは本質的にそういうものです。それから、農業というものは、水を灌水する、肥料をやる、人工的にそれを与えることによって、ものをつくるわけです。そういうことをするから、他のものをなくしてでも、雑草をなくしてでも、成長させることができるわけです。
 林業というのはそんなものじゃないですね。林業というの肥料分というのは本質的にやれるものじゃありません。一部の篤林家の方は肥料をまいて、施肥の林業をやっておられますけれども、あれは特殊なことでございまして、よほど地味の悪い所、土地が肥えてない所であればいいですが、通常の山で肥料をやりますと、枝打ちも何もしないでやりますと、スギ林ですとスギカミキリが多発いたします。私どもの隣の県などはスギカミキリが大発生いたしまして、昭和40年〜50年代に施肥をしたばかりに、今はもうスギなんて見れたものじゃございません。どの山に行っても半分以上はスギカミキリの被害を受けているという状況でございます。
 また「より太く、より長く、より多く」ということで、必要以上の長さと材積を求めたことで、過密な状態を人工林の通常の状態だというふうに勘違いをはじめた。これは、昔からの林業地では20年なり30年、長くても50年60年で伐採して市場に出したわけですから、さほど問題にはならなかったわけですけれども、もう50年60年で伐れない、ということになってまいりますと、これが大きな障害になってくるわけです。どんな障害かというと、それは生物の循環機能がなくなってくるということです。
 それは何かといいますと、これは生物の基本なんですが、自分の排泄物で自分を育てるということは、生物は本来できるものじゃないんです。自分の排泄物を他の生物が分解するなり食べるなりして、それをまた他の動物が食べて、その死骸がまた分解して、また人間に還ってくる。生物は循環することによって全体が生きていけるわけです。
 今の人工林の姿を見ますと、スギの林はスギしかないわけです。スギから落ちた枝葉は生物が分解してくれて、またスギが吸収しなければいけない。そこにはスギが必要とする養分はどんどん少なくなる。ですから北山スギに代表されるように、何代も更新していきますと、やはりそこには施肥というものが必要になってきます。では、日本中の山にそんなことができるかといいますと、そんなことできるわけがない。そんなことをするという考え自身が、人間のあさはかな考え方であると、私は思うわけです。
 皆さんのお手元の資料に、「人工林の特徴」という紙があると思いますが。これはいま私がここでお話している手元の資料のコピーなんですが、ここに森林の植生の荒廃した状況というのはどんなものか、というのを表にしてみました。この下の表を見ていただきたいんですけれども、健全な森林がどんなものかといいますと、中層の植生が完全にあって、その中層木が樹冠を形成している。健全な森林かどうかの一番大きな目安というのは、この中層木でございます。いま下層植生、下層植生と、間伐して下層植生を大事にする、というようなことが言われておりますが、実はそれだけでは十分ではありません。では中層の植生というのはなぜ大切かといいますと、上層が何らかの理由で折れてしまう。そのときに、中層があればそれをすぐ補ってくれるわけですね。
<ホワイトボードに絵を描く>
 上層木があって、中層木があって、下層植生がある。これが本来の森林の健全な姿なんです。これを(上層木を)人間が必要なために伐っていく、なくしていくといったときにどうなるかというと、いまの山ですと、ここが全部なくなってしまう。まったく何もない状態になってしまう。これが今の人工林なんです。山にとってはすごいストレスでございます。だから災害も当然起きてまいります。ところが、ここに中層木があることによって、これを(上層木)をなくしても中層木が大きくなる。これをすぐ補ってくれる。
 山が健全か健全でないか? これは上層木と下層植生の関係でなしに、この中層木があるかないか、これが大事なんです。で、こういう山、実は日本中にいっぱいあるんです。針葉樹林です。皆さん気がついていないだけで……。そして、上層木がなくなったことによって、大被害が起こるべきところが、ほとんど発生していないということが、ここ20〜30年間、日本全国の山に起きているのです。それは何かというと、アカマツ林です。
 アカマツ林は、30年ほど前から、マツクイムシで大被害を受けています。日本中、標高500〜600m以下の日本中のアカマツはどんどん枯れていきました。ところが、これが枯れても山はどうでしょうか? マツが枯れたことによって、山が崩壊したという話はどれほど聞かれたことがあるでしょう? ほとんどないはずです。たとえば瀬戸内海のようなところ、瀬戸内のあの地域ですね、あそこはマツしかないような所でございますけれども、あそこにもしっかりと下層植生、中層木がありますから、山じゅう真っ赤になっている中に、3年ほどしますともう緑の山になっていきます。この中層木こそが、山の森林の健全な状態を保っている。
 このように現実的な例があったわけです。中層があるかないか、これが山が健全かどうかの一番大きなポイントである、と私は考えております。
 下層植生も、健全な状態であれば密生しておりますけれども、極相状態になってまいりますと、この下層植生がなくなります。<ホワイトボードに絵を描く> たとえばブナ林とかナラとかですね、そういうものが大きくなりますと、上層と中層は残りますけれども、下層がなくなりまして、そこには落ち葉がいっぱいたまってきます。こういう山になっているわけでございます。自然の山へ行かれるとよく分かります。このあたりですと、ツバキとかソヨゴとか陰樹性の高い、中層木がいっぱいありまして、下には落ち葉だけがある。下には草が生えていない。あれが悪い山だという人が、中には最近出てまいりました。私はとんでもないといって、私は言っているのですが……。
 下層植生が大事だといわれているので、極相状態になった山の中層木を伐って、下層を生えるようにしたいんだ、というようなことを言っている人間が私の地元にはたくさんおりまして、植生というものを全然理解せずに、山をもてあそんでいるというような状況が出ております。
 それから、健全な森林のもう一つの目安というのは枝下高。生きた枝の下の高さが樹高の半分くらいまで生えている。これは針葉樹であっても広葉樹であってもあまり変わらないですが、まあ半分以上枝があるような、そういう山は健全な山と言ってよいと思います。
 そして、平均の形状比。これは針葉樹にとくに言えるわけですが、形状比というのは何かといいますと、<ホワイトボードに絵を描く> たとえばここを胸高直径といいます。1.2m、人間の胸の高さですね、ここでの太さがたとえば30cmあったとします。30cmの木であれば、これの樹高(30×70)これが21m。この樹高が21mよりも低ければ、木というのは非常に折れにくいわけです。実はこれが分かったのは、ごく最近でございます。まだ20年しか経っていない。
 これは、昭和55年の12月の暮から、昭和56年の1月の7日ころまでに、実は福井県と福島県で、大雪害が起きました。福島県では高圧線の鉄塔がばたばた倒れて、大被害が起きたのを、ご記憶にありませんでしょうか。あのときに、福井県が、福島県の数倍の森林の被害を被りました。私が担当していた一つの市町村だけで被害は200億円。そのときに折れた木を徹底的に私たちは調べました。われわれ林業改良指導員はですね、もう毎日のごとく山の調査に入りまして、一定のプロットの中に何本木があって、そのうちの何本が倒れたのか。その木は太さがどれだけで長さがどれだけで、枝張りがとれだけで枝下高がどれだけで、というのを全部調べました。調べたデーターは膨大なものであります。その中から出てきたのが形状比70という数字です。形状比70以下の木は、ゼロではないですが、ほとんど折れていなかったのです。あの大被害にもかかわらずほとんど折れていない。
 林縁木というのは片枝になっていますね。<ホワイトボードに絵を描く> 林縁は枝打ちをしないというのは日本の林業の常識でございます。枝打ちをしないので片側に枝が下まである。このように完全な片枝になっていても、折れていなかった。それを調べたところが、やはり形状比が70以下だった。木の高さが、この胸高直径の70倍以内の木は折れていなかった。「片枝だから折れやすい」というのは形状比70以上の木に言えることであって、70以下の木は折れていない。このことを研究しまして、福井県の職員は博士号を取りました。
 つまり、そういう形状比70未満の山は健全であると言えます。
 では、不健全な森林というのはどんなものかというと、中層植生はもちろんございません。下層植生がばらばらとある。枝下高も1/2から2/3くらいの高さまで、枝が枯れ上がっている。形状比を見ると、70から85くらい。まあこれぐらいが不健全な森林。まだ手のほどこし用がある。間伐さえ行なえば、健全な森林に戻れるという範囲です。
 ところが、それ以上に悪くなってしまうと、中層の植生もない。下層の植生もない。枝下高はもう2/3以上まで枯れ上がっている。そして、平均の形状比は85以上になっている。こういう山というのは、植生的にはもう完全に荒廃しているわけです。木が立っているから健全だというわけではありません。
 実は、有名林業地、いい木材を生産していた山というのはどういう山だったかというと、この植生の荒廃した森林という、このところで林業を成り立たせていたわけでございます。それが、いい木材生産だ、といわれてきたわけです。ですから、みんなこれを目指してやってきた。健全な森林ではない山で、木材をたくさん採らなければいけないということだけを考えてやってきたわけですけれども、木材がダブついたとたんに、もうどうしようもない。間伐するにも間伐できない。間伐すれば残った木が折れてしまう……。
 今回、まだ1ヶ月ほどですかね。新しく『森林・林業百科辞典』(日本林業技術協会/1,234頁/定価28,000円)という本がでました。私も1冊買いましたけれども、これで「間伐」というのを調べましたら、間伐というのはどういう山でするのかというと「形状比が100以下になるように山を育てるのが間伐です」と書いてありました。とんでもないことですね。私から申し上げれば。それは昔のやりかたをそのままに、木材生産だけを考えたやりかたです。どうしてそれだけ「長い」木材が必要なんでしょうか? 私は不思議でなりません。通常使われる木材の長さというのは10m以上のものはほとんど使わないはずです。特殊な材は別として、通常の住宅ですね、そこに10mを超える木材を桁などに使っているところがあれば、それはよほど立派な家で、ほとんどないなずです。であれば、枝下高が10メートルの木をより太くすればいいわけです。それ以上採るというのは人間のエゴが強すぎるんじゃないか、と私は思います。
 そういうふうに、山を畑だと考えてやってきた林業、こういうものから森林本来の姿に戻すべきじゃないか。それはなにかというと、肥料というものは森林の生物循環の中でまかなっていくものだ、ということは下層植生があり、中層植生がある森づくりをすることによって、肥料分をそこで自然循環させる、という山づくりにやはり持っていかなければいけない。で、そういう山というのは、天然の山、天然の針葉樹林、たとえば屋久杉、木曾のヒノキ、秋田スギ、北海道のエゾマツ・トドマツなどがそうですが、ああいう山をお手本にしてこれから目指していくべきじゃないかなと思うわけです。
 そういう山はどうでしょう、一番いい木を採っている山でもあるわけです。決してああいう山づくりが木材生産が成り立たないというわけではないわけです。高知県にあります魚梁瀬スギをご存知でしょうか? 林野庁の職員の方に名刺をいただきますと、スギの板で作った名刺をくれます。あのスギはすべて魚梁瀬スギでございます。あのスギというのは実にすばらしい。私もここ3年間続けて見学に行っております。実に密度の高い山ですが、ああいう山を見てしまうと間伐はいらないんじゃないだろうかと思ってしまうんで、あんまり見に行ってくださいと言えないんですが、実に密度の高い山です。まあ、ああいう天然林は別といたしまして、秋田スギにしても、木曾のヒノキにしても、非常に疎の状態、上層木が疎の状態です。ああいう山づくりをしっかりとやっていただきたい。
 そういう所を見に行く機会もない、行ったこともない、どんな山かイメージできない、とおっしゃるのであれば、アカマツの天然林をイメージしていただきたい。あのアカマツの天然林というのは、ちょうど私がご説明申し上げる密度なのです。
 スギ林とアカマツ林があるとします。同じ面積に同じ太さの木がスギ林とヒノキ林にあったとしますと、<ホワイトボードに絵を描く> たとえばこちらが10本立っているとしますと、アカマツ林は5本しか立てないんです。アカマツは半分以下なんです。あのアカマツ林が最高に立っている状態まで、スギの木の本数を少なくしましょう、というのが基本的に私の考え方なのです。あの状態にすれば、下層植生は十分生えてまいります。中層も形成されていきます。スギであっても形成されていきます。あそこまで、いま変換していく必要があるんじゃないか、と私は考えているわけです。

 次に、問題の密度管理についてお話を進めたいと思います。
 お手元の資料のうち『良質材生産のすすめ』というのを見てください。これは私が地元で「林業教室」をやっておりまして、林家の方、あるいは森林組合の職員、作業班の方を対象に6年間ずっと、毎月1回ずっと続けてまいりました。今も続けております。そのときに使っているテキストでございます。それの6ページを開いてください。
 そこに「大径材生産と環境林づくりの保育体系図(鋸谷式密度管理図)」という表があるかと思います。こういう表はよく見られていると思います。この縦軸というのはhaあたりの本数です。横軸はなにかというと、通常は林齢を表しています。しかし私の場合は林齢は単なる目安でございます。林齢などはどうでもいいのです。大切なのは何かといいますと、この胸高直径です。
 胸高直径がどの太さになったとき、haあたり「何本」がいいですよ、ということを表しているわけです。これが林齢を主に置きますと、成長の悪い山、いい山、あるいは混んでいる山、混んでいない山によって、太さというのはちがってきてしまいます。ですから実質的にこの表があっても使えないというのが現状なのです。
 だからこういう表を見ますと、「どこどこの林業地の密度管理です」という、階段状だけが書いてある。それがいいとも悪いとも何も書いていない。その階段状にしたらどうなるか、「その林業地のような木になります」ということしか書いていない。そのときに、「枝打ちはこういう林齢のときに枝打ちしますよ、間伐はこのときに何%ぐらいしますよ」ということしか書いていない。そういう施業をしたらそうなる、と。ところが、有名林業地に行って実際に調査してみますと、その代表的な山にいって密度管理がそうだろうか? と調査してみますと、必ずしもそうじゃないんですね。実はそれよりもドンと低いのが現実です。あの表というのは実にいいかげんだということです。皆さん方はそれを信じきってしまっている。説明する都道府県の林業改良指導員が出てまいりまして、「ようこそ、遠いところご苦労さまでございます。ここの林業地の密度管理はこうでございます……」と、延々と30分も1時間も説明してくれますけれども、説明を聞いたあとに現地に行きまして、私はいじわるでございますので、いつもこの釣り竿を持っていきまして、ぐるっと回して測定するのです。すると、決してその本数になっていない。それより低いのです。やはりいい管理をしている所は低いんです。私のように極端ではないですけれども、低くなっている。
 では、この表の中で、まず上の点線を見てください。これが何かといいますと、これは「限界成立本数」です。「限界成立本数」というのは、たとえば胸高直径が30cmの木のとき、平均ですよ、もう胸高直径が全部30cmと思ってください、そのときの自然界での成立する本数は1200本くらいしか成り立ちませんよ、という、そのラインです。これをしっかりと頭に入れていただかないと、私は30cmの木を2000本この山で育てるんだと、いくら頑張って育てても、これはできっこないんです。いくら頑張ったってできないです。それは自然の摂理が許さないわけです。
 このラインはどうして求められるかといいますと、まあ林分調査していただくと分かるんですが、<ホワイトボードに絵を描く> これも、分かってそれほど時間が経っているわけではないのですが……。100m×100mこういう山があったとします。これ1haですね。この山に木を生やしてどんどん成長させたとする。そして、ぎゅうぎゅう詰めの飽和状態に達したとき、胸高直径のところ1.2mの高さで全部の木を伐ってしまう。下のほうの切り株ではないですよ。<ホワイトボードに絵を描く> この伐った断面を全部たします。すると、自然界でその成長の限界に達した林分の胸高断面積の合計はどのくらいになるか? これは、例えばスギだけではなく、細い雑木も全部たします。通常の山ですと、これが80m2くらいしかない。
 「え? そんな少ないの?」と思われるかもしれませんが、10,000m2のうち80m2しかないのです。これが100m2を超えているような山というのは、私の知るかぎり、私が現実的に見た山では、高知県の魚梁瀬スギのごく一部の10haぐらいのところだけでございます。あそこへ行きますと、緻密に私が計算したわけじゃなく、あそこに書いてある看板を見てですね、平均直径から出した面積で、それでも100m2をコンマ単位でわずかに超える程度です。これは超特種な所と考えていい。みなさんのこの辺りの山ですと、おそらく80m2くらいしかありません。
 この80m2を基準にしてですね、ものを考えますと、非常にその密度管理というものが解りやすいわけです。<保育体系図を指差す> これが80m2ですね。haあたり80m2のラインということです。
 では、健全な山づくりをするためにはどうしたらいいのか。先ほど、胸高直径に対しての高さ、つまり形状比が70以下の木は折れにくいと申し上げました。現実に折れにくいんです。それは例外もありますよ。形状比が70以下の木でも、虫が入っていたり、二股になっていたりというようなものはですね、裂けたり折れたりすることもありますけれども。例えば形状比が70以下の木がですね、いっぱいある中で、大きな重い雪が降って、木がばきばきと倒れたとしても、それが3割を超えるということはまずありません。まずありえません。「56豪雪」で私たちが経験した中からいえば、まずありえないと思います。あのときの雪の重さは凄いものでございました。その雪にも耐えたわけでございます。ですから通常の雪ではまず折れません。
 で、形状比70の木をつくる密度はどのくらいなのか? というのが、<保育体系図を指差す> この真ん中の実線でございます。これは私が調査いたしまして、私の地元の山をずっと調べて、雪折れしていない、それから形状比がどうか、というのを調べまして、<ホワイトボードに絵を書く> ここのm2数が、1haの胸高断面積の合計ですね、これが50m2以下の山は、平均形状比が70以下でございます。これも、皆さん方で調べていただきますと、同じ結果が出ると思います。つまり、この50m2以下で本数を管理していけば、雪折れあるいは風倒に対して非常に強い山づくりができるということです。
 であれば、間伐はどうしたらいいか? 間伐をするのは、<保育体系図を指差す> 50m2に達したときに間伐をすればいいわけです。これを超えても木は残りますけれども、実はここのところは非常に混みあった状態でなかなか成長しない。横に大きくならない状態で、不安定な状態で、上ばかり伸びていくということになるわけです。つまり、ここが非常に危険なライン。ここはイエローからレッドゾーンになるわけです。
 さて、この範囲で間伐をすればいいんですが、では間伐はどの程度すればいいのか? ということです。たとえば間伐を思いきって少なくすればいい、と考えてみます。自分の山はhaあたり500本にするんだ、と。70年〜80年たったときに500本。だから20年生のときに500本までどーんと下げてしまう、これだっていいんじゃないか? というふうに考える人もいるかもしれません。しかしここまで下げてしまいますと、木の高さがこの段階で、<保育体系図を指差す> この表では12mぐらい、おそらくそれぐらいしかならないと思いますね、20年生では。だいたい木というのは、1年間にだいたい50cmから、多くても70〜80cmくらいしか上昇成長いたしません。そういうことから計算しますと、だいたい12〜13mくらいにしかなっていない。その段階でここまで本数を少なくしますと、周りからですね、広葉樹がわっと出てまいります。ことに、どこでもそうですが、カラスザンショウ、タラ、こういう成長の早い木が一気にバッと出てまいります。せっかく植えたスギの木を囲ってしまう、という現象がおきるわけです。それではおもしろくないわけでございまして、せっかく植えたスギの木がダメになってしまう。
 ではどの程度までいいいのか? ここで「樹冠占有率」というものを考えます。<ホワイトボードに絵を書く> これは木の幹ですね、これには枝がついております。ヘリコプターに乗って上から見たと考えてください。この枝のついたこの面積、この面積が全体の面積に対して50%以上。50%以上になるようであれば、この山は、下から広葉樹が侵入してきても、上層のスギが絶対的に優位に立つわけです。半分以上ありますから、これは多数決の原理だと思ってください。単純な発想ですね(笑)。単純な発想ですが、実はそれが正しいんです。50%あれば、実はこれ1年ごとに大きくなるわけです。この状態で木はずっと止まっているわけじゃないんです。残した木というのは毎年大きくなるわけです。すると、ここに生えてきた木も、実は大きくなることによって、ここには当然、陽樹性の強い木がまず生えようとするわけですけれども、上層木の影になって押さえられていく。ですから、絶対的優位に立つ数字というのは、「樹冠占有率」が50%以上であればこれは絶対的優位に立ちます。私がやってきた中でも、50%以上あれば、それは下層植生がぐーっと生えて来ますけども、植えたスギ・ヒノキを超えることはありません。
 さて密度管理図に戻ります。そのラインがこの下の点線のラインです。ですから私が言いたいのは何かというと、この実線と点線の間で間伐を繰り返していただければ、下層植生は十分に育つ、そして残っている木は健全な木である、そして侵入木によって植えた木が衰弱するということがない、ということです。これが大事なんです。<保育体系図を指す> ここが間伐のエリアなんですね。
 ところが、おそらくこの地域での間伐されてきたエリアはどこかといいますと、<保育体系図を指す> もうここですね。ここの限界成立本数の線に限りなく近いところでこういう間伐をやってきた。これが、いい木材を生産する手法だったのです。これはどこの林業地に行ってもほとんど変わらないです。もう限界成立本数直前で本数を下げる。これを5年ごとに繰り返してきた。これが従来の間伐のやりかたです。
 これでは、もう森林の植生としては非常に不安定な状態です。もう自然に完璧に逆らった状態での育て方をしている。ですから、<保育体系図を指す> ここで5年たって間伐をやらないと、もうこのラインから上にいくことはないのですから、つまり立っていた木の何本かが枯れたり折れたりする、という状態に入っていくのです。ここで雪が降ることによって、一挙にバタバタバタと倒れていく。おそらくここも、去年、奥多摩を見せていただきましたが、そのとき2〜3年前に倒れた雪害木を見かけました。まさにこの状態です。こういうことによって雪害、風害が起きているわけです。
 九州で、今から7〜8年前でしょうか、大被害がございました。あれも、まさにこの状態でした。あそこは雪が降りませんからね。しかし、そんなのは折れて当たり前のことなのです。それをあたかも「自然が悪い」と言っている。いいですか、自然は絶対に正しいんです。自然は、どんなに大きな台風が来ようとも「間違いだ」などと言っているのは、これは人間のエゴでございます。自然はどんな大きな災害をもたらそうと、それは絶対に正しいんです。やはりその中で人間というのは何をすべきかということを考えていかなければならない。自然から教えられる通りにやればいいのです。エゴに迷わされずにやっていただきたい、と思うわけです。

 ここまでで、何かご質問ございませんでしょうか。

(質問無く、しばし時間経過)

 形状比が70。いままでお話した中で、形状比が70以下の木は健全だということ。形状比が70以下の木をつくるためには、胸高断面積合計が50m2以下で密度管理をすればよい、ということですね。この2つを覚えていただくだけで、認識していただくだけで、山づくりというのは大きく変わるはずでございます。

質問者(奥山):いま間伐の目安で、胸高断面積と樹冠占有率などのお話がありましたが、それはスギとかヒノキとかカラマツとか、樹種によって変わるんでしょうか?

鋸谷:いや、私はほとんど変わらないと思います。常緑の針葉樹、いわゆる耐陰性の強い針葉樹ですね、「高木性陰樹」と私は言っているんですけれども「高木性陰樹」であれば基本的に広葉樹もあまり変わらないと思います。針葉樹・広葉樹を問わず、だいたいそれに近い数字であると思います。若干、それは幅はありますけども。

質問者(奥山):カラマツなんかはわりと明るいイメージがあるんですが、それでもやっぱり同じなんでしょうか。

鋸谷:私カラマツのことは実はさっぱりわからないんでございまして(笑)、なにしろ福井にカラマツが無いもんですから、林分調査をしたことないんですよ。はい、すいません。

質問者(緒方):あの、樹冠の占有率なんですけれども、わたし神奈川に住んでいるんですけれども、スギ・ヒノキの一斉林の場合ですね、一回も間伐していない所がありまして、ほとんど真っ暗という状況なんですけれども、間伐に入る場合ですね、50パーセント目指して伐っていいのか、それとも段階的に伐ったほうがいいのか……

鋸谷:そうですね、今日の最大のポイントはそこでございます(笑)。そこに答えを出さなきゃ私はここに来た意味がないんでございまして、最後に30分間そのお話をさせていただきたいと思います(笑)

質問者(池谷):すいません、聞き漏らしたのかもしれないんですが、樹冠占有率はどうやって調べるのでしょうか。

鋸谷:これはですね、実は私も測っているわけじゃございません、これ推定値で申し上げています。何かといいますと、<ホワイトボードに絵を描く> この胸高断面積がいくらかということであれば、これは同じ比率であると、いうことで考えております。ですから、私が樹冠占有率100パーセントというのはどういう状態かといいますと、健全な状態での樹冠占有率でありまして、不健全な木がですね、ひょひょろっとちょぼんと葉っぱをつけている状態での樹冠占有率ではございません、ここ、ちょっと説明が漏れました。申し訳ございません。形状比が70以下の、ずんぐりむっくりの木で、そして枝がですね樹高の半分以上ついているような、そういう状態での樹冠占有率、それが100%のときの50%、というように考えてください。胸高断面積50m2、これの半分のところまでいいですよ、ha当たり25m2のときがほぼ樹冠占有率50%。ですからこの山では、実際には枝打ちをしますから、仕上がった状態、間伐して枝打ちをした状態では樹冠占有率は50%を切ります。切りますけども、それは人間がいい木をつくりたいというだけで、少し切っているだけでございますから、それは問題ないわけです。

(しばし時間経過)

 それから、いちばん最初に申し上げればよかったんですが、私は今日のこの講議で、従来の林業とはまったく反対、相反することをたくさん申し上げます。申し上げますけども、それに対してどんどんご批判いただきたい。ご質問もいただきたい。
 私、いちばん最初に言いましたけれども、従来の方法で成り立たなくなっている以上、やっぱり違った考え方をしないとですね、これは問題解決できないという基本的なスタンスを持っておりますので、その中でこのようなことをあえて申し上げるわけでございまして、それも私が30年近く自分の山で実験してきた結果でですね、自信をもっているもんですから、申し上げているわけでございます。
 林業というのは実に長い時間がかかります。一つの実験をしましても、やっぱり10年20年かかるわけです。そういうことですから、たまたまですね私は山の木が好きだったものですから、10代のときからそういうものもわからない状態のときから、ちょこちょことそういった実験をしてきたものですからね、結果がまあ50歳を前に出ましたのでね、こういうことをお話しているわけです。

         ☆

 では次に、従来の間伐ということでお話したいと思います。とくに教科書はございません。お話だけ聞いていただければよいと思います。
 従来の間伐といいますのは、まあ「なすび伐り」といいまして、目的の大きさになった木、いい木をですね、たとえば柱材4寸角の柱材が2本とれるから、それを伐って出す、という目的をもってやれていたような山は別といたしまして、一般的には、悪い木、劣性木を間伐するという方法でやってまいりました。で、そのやってきた方法というのは、まあ5年に一度、10〜20%くらい伐っていきましょう、というやりかたでやってきたわけです。
 実は、私から申し上げれば、10%とか20%という本数、劣性木ですね、これは「放っておいても枯れる折れる木」なんです。10年たてば、枯れるか折れるか、そんな木を何回繰り返していても、山の健全性、木の健全性というのはぜんぜん改善されていないわけです。それは、いい木材をとる、という目的には適っております。たしかに適っているんですが、健全な木、健全な山づくりということからいえば、ぜんぜんその目的を達していないわけです。ですから20%以上伐ることによって初めて間伐の、健全な山づくりに対する間伐の意味が出てくるわけです。私どもは、<保育体系図を指す> この表の中でも書いてございますが、間伐率というのは、33%、1/3伐ってくださいよ、ということですね。2回目も33%、1/3伐ってくださいと。もう40年になって中目材がとれるようになったら、これはもう択伐の域に入ってくる、ということで択伐であれば、50%伐ってくださいよ、こういうご提案を申し上げている。
 ところで、この数字ですが、これは「本数率」ではございません。「材積比」だと考えてください。間伐というのは、よく本数率だけで考えられる方がいらっしゃいますが、本質的にはこれは材積率でございます。材積が100m3あれば、そのうちの33m3に相当する悪い木を伐っていただかなければいけないということです。ですから本数率にいたしますと、33%ではなく、悪い木を伐りますから、劣性木を伐りますから、本数ではそれが40%あるいは50%を超えるということが当然おきてまいります。そういう間伐です。
 ところがですね、日本には「保安林」というのがございます。保安林の「指定施業要件」というのがございます。これは法律できまっておりまして、保安林では間伐は20%以内ときめられております。これには問題があります。この率は本質的には木材生産を目的にした考え方なのです。いい木材をつくるため20%以上伐ってはだめですよ、という考え方の20%でございます。ですから私の申し上げているこの間伐をですね、保安林の水源涵養林でこれをやりますと、法律違反となってしまう、というのが日本の林業制度でございます。こんなことがあっていいのでしょうか?
 実は、今年の4月1日からこの指定施業要件というのを、林野庁は20%から35%へ、択伐率は35%といっていたのを50%に、今年の4月から変える予定でございました。ところが、改正が間に合いませんでした。制度が間に合わずに来年の4月1日を目指していま手続き中でございます。で、林野庁が言っていますのは35%でございます。間伐率35%で、これはあくまでも材積比でございます。間伐率35%、択伐率50%に変えようとしている。私はそれで十分だと思います。そうであれば、健全な山づくりというのができていくし、またいい木材生産というのも当然ついてまいります。今年の2月でしたね、林野庁に行って話をしたのですが「今年はやるぞ、やるぞ!」と言っていましたけど、やらなかったですね(笑)。間に合わなかった。
 そういう従来の間伐のやり方では、健全な山づくりにはならないということでございます。では、私がご提案申し上げている間伐のやり方というのはどういうものか、ということを今からお話したいと思います。

 まず、私の間伐の作業手順を申し上げます。考え方はいま申し上げましたので今度は作業手順をお話します。
 お手元のテキスト『良質材生産のすすめ』の、5ページのところに書いてございますが、これでは十分に説明しておりませんので、私から口でお話しますので、これに付け加えて下さい。
 
 まずいちばん最初に、山に入りましたら「つる」を切っていただきたい。つる性の植物というのは光が大好きでございます。光が大好きでがざいますから、上に伸びようとするわけでございます。光が嫌いだったら上に伸びないですよね。光が好きだから上に伸びるわけです。だから、あの間伐をすることによって、つるというのは一斉に繁茂してまいります。ですから、まず間伐する前に、つるを徹底して切っていただきたい。限りなく地面に近いところから切っていただきたい。
 そして次に、伐っていただく木。まずこの辺りでは考える必要はないと思いますが、上層木と競合しているような広葉樹、カラスザンショウのような高木性の陽樹ですね。そういう上層木と競合しているような侵入木、これを伐っていただきたい。
 次に、育林木の中の、劣性の木を1本伐っていただきたい。間伐の対象木となる中でいちばん大きい木でけっこうです。それは何かといいますと、樹高を測るためでございます。1本伐りますと、だいたいその木がですね何メートルかということが分かります。簡単に測れます。
 測り方は今から、<測定用釣り竿を取り出す> 「魔法の……」ではないんですが、釣り竿を私はいつも山に行くときは釣り竿を持っていくわけですけれども、これ4mの釣り竿でございます。昔は私はこれで仕事中にイワナを釣ってですね、ちっとも仕事をせずに遊んでいたわけでございますが(笑)。これはやっぱり罪悪感を感じまして、何かこう役に立つことはないかなと思いましたら、ちょうどこれが4mの釣り竿をぐるっと振り回しますと、4m×4m×3.14をしますと、なんと50m2なんですね。1畝(せ)の半分ですね、広さが。50m2というのは何かというと、1haの200分の1なのです。
 胸高直径が30cm以下の木であれば、だいたい50m2あたりの密度管理をすれば、適正に林分全体の密度管理ができます。胸高直径が30cmを超えますと、これでは誤差が大きくなってきますので、胸高直径が30cmを超えるような木のときには、5.65mの釣り竿を持ってきていただいいてぐるっと回していただきますと、これが100m2になります。1畝ですね。そういう密度管理をしていただきたい。
 樹高の話に戻ります。樹高の測り方ですが、この釣り竿が4mですね、倒した木にこれをぽんぽんと当てていけば、この樹高が20mとすれば、4m×5というふうに測っていけばいい。尺取り虫のように測っていけばいいわけですから、簡単に樹高が測れます。
 あるいはこの4mの釣り竿をですね、また今日現場へ行ってからお話しますけれども、実際やっていただきますけれども、4mの釣り竿をですね、こう立てていただいて、だいたい20mくらい離れたところからですね、こう見上げていただく。すると、これが何倍かな、と見ていただく。これで、精度の高い計測ができます。誤差はプラスマイナスだいたい1m以内に入ってまいります。そのぐらい精度の高い測り方ができます。そういう測り方を実際やってみます。 
 ということで、4mの棒を持って歩くというのは、これからの山の管理の常識にしていただきたい、と思います。ヒマなときはそれで魚を釣っていただく(笑)。主には密度管理に使っていただく、ということでね。これくらいの長さであると、ナップサックの中にきちっと入ります。こういう長さのやつを選んで買っていただきたい。これは2000円くらいで売っていますから。釣り竿のいいのを買う必要はないですよ(笑)。釣り竿のですね「これは10万円したんだ」とかですね、そんなもの買って山に行って、間伐した木がぼとんとおちたらそれでパーでございますからね(笑)。2〜3000円で十分でございます。中でも「硬調」というやつを、硬いやつですね、軟かいやつはぐにゃっと曲ってしまいます。
 さて、そうして木の長さを測ります。木の長さが21mあったっといたします。あ、21mはちょっと長過ぎますね。では14mあったとします。14m÷70、を計算していただきますと、20cmという数字がでてまいります。そうすると、そこでの形状比が70の木というのはこの山で20cm以上の木はですね、形状比が70以下だということであります。むつかしいですね(笑)。
 20より大きいのが70以下なんですね。で、そういうふうにして、形状比という数値をここで使っていただく。余談ですが、形状比というのは、そんなにね、形状比が69.8になるのでこれはダメかなとかですね、そんなことを考えないでくださいよ。70がですね、65であっていいわけですし、73であっても、そんなものは70程度ということで処理していただければいいということです。
 そうして70という数字から、20cmという直径を出します。そうすると、この山で残すべき木というのはその20cmよりも太い木、これを残せばいいわけですね。そうとう混雑している木でもですね、こういう木は何本かあります。必ず何本かあります。ところが管理がいい山であればあるほど、実は70よりも大きい数字、形状比が80とかですね、そういうものばかりがずらっと列んでしまっている、ということになってくる。そういう山づくりを目指してきたんですから、それはしかたないんですね。
 そうやって70以下になる木を頭にイメージしていただき、そして、この山は主に20cm以上の木に印しをつける。20cm以上の木がなければ、20cmにより近い、18cmとか17cmとかそういうより近いものを主に選ぶんだよ、という目安がつくわけです。そういう方法で残す木というものを、イメージしていただきたい。
 そしてこの表(保育体系図)の中にですね、間伐後の半径4m以内の本数というのが書いてございます。これは半径4mの、つまり50あたりの成立本数でございます。これはですね、たとえば胸高直径が18cmの木であれば、そこに残す木は、この4メートルの棒を振り回したこのエリアの中に、6本あればいいですよ、24cmであれば、4本でいいですよ、ということです。30cmであれば2本ですね。
 で、こんな表を山へ持っていってですよ、いちいち見てですよ、「ああ、これはこうやな」なんてやっていて、雨が降ってきたらずぶずぶになって、ダメになってしまう。ですから、シールにして皆さんの手元に1枚ずつお配りしておきました。<シールを手にとる> 胸高直径が14cmのときは10本、18cmのときは6本、24cmは4本、30cmは3本、36cmは2本、44cmは1本でいいですよ、と書いてあります。これ以内で管理すれば、形状比が70以下になりますよ、という数字でございます。
 ところで、この表(保育体系図)で実はここに書いてある数字と、この黄色いシールに書いてある数字、この部分でちがう数字が書いてございます。遠慮しておりまして、<保育体系図を指差す> ここが3本、ここが2本、ここが1本(笑)。この大きさ、30cmを超えた大きさで、実はこの本数まで私は落としたいんです。落としたいんですが、皆さん方、それをやるとびっくり仰天(笑)、びっくり仰天なんですよ。「そんなむちゃくちゃな、山がダメになる」(笑)。ぜんぜんダメにならないですよ。私の経験からいけばぜんぜんダメにならない。ちょうどいいくらい。10年後を見て、やっぱりよかったな、20年もたったら、なんでもっと伐らなかったのか、と必ず思う。必ず思うんです。というわけで、この30cmのところからは若干遠慮してこのシールをつくっているわけです。
 まあこの大きさになると、もう今は材価が安すぎてね、もう売られる方はないかと思うんですが、利用しようとすればけっこう利用できますから、最悪の場合は折れたって、全部売ってしまえばいいわけですから、そういう意味で若干遠慮しているということです。
 それで、このシールをですね、この竿のこういうところに貼っておく。貼っておけばですね、この密度管理図を持っていかなくても、これだけで山で密度管理が完璧にできるんです。はい。いいもんでしょう?(笑)これ(シール)、私がつくったものじゃないんですよ。一緒に仕事をしている森林組合の職員がね、私がこれ(密度管理図)を持っていけというものですからね、持っていかないと怒るわけですからね。これをなんとかしなきゃいけないと、一生懸命考えたらこのシールになったんですよ。必要性に迫られてこのシールができたのです。すばらしいもんです。
 これにですね、実はもう一つ、手書きで書いていただくといいのがある。たとえば14cmのときの樹高は形状比70だったら、どのくらいだったらいいか? これは10m。ちょっとその表にでもいいですから書いてください。14cmのときは10m、18cmのときは12.5m、24cmのときは17m、30cmのときは21m、36cmのときは25m、40cmのときは31m、これ以下の樹高であれば形状比は70以下ですよということです。もう一段つけて、この表にすれば完璧ですね。
 そういうかたちで木を選んでいただいて、この本数だけ印しをつけていただきます。テープを巻いていただきます。残す木にだけテープを巻いていただきます。その方が本数的に数が少なくなるわけです。私の間伐のやり方というのは、いま成立している本数よりも、必ず皆さん方の山であれば50%以上伐ることになりますから、50%以上ということは、残す木の方が少ないなと(笑)。ですから、残す方を選んでいただく。
 良い木を選ぶというのは、実は非常に大切なことでありまして、悪い木を選びますと、なかなか伐れないんです。良い木を選びますとね、「あ、これはいい木だな」と。「この木を残すためには、横にあるやつはいいけど、やっぱりこれは伐った方がいいな」と。人間の心理ですね、これ。だれでもそうなるんです。で、いい木っていうのは、また誰が選んでもいいんですね。美人の人は誰が選んでも美人でしょう?(笑) いい男は誰が見たっていい男でしょう。特別な好き嫌いはべつとしましてね(笑)。だから、いい木を選んでいく。
 そして、あとは印しを付けなかった木を、徹底して、もう倒れやすい方向、方向はもうどちらでも結構でございます。皆さん方が上へ向けて、葉枯らしのために倒すんだ、そんなことまったく考える必要ありません。間伐というのは残した木を良くするためにやる仕事ですから、材を利用するといことは、一般の山では考える必要はありません。目的があれば別です。この材は使いたいということであれば、そのように伐ればいいですけれども、目的がないのであれば、あえて出す必要はありません。きちっとそれは腐って、残った木の肥料に必ずなってくれるわけですから、残した木にその価値は全部転化されていくわけですから。それが、たまたま時間が長いだけのことなんです。
 ところが、10年後にはですね、それが1本の木が、1万円になって返ってくるんだ。その1万円が待てないんですね。もう伐った木は明日市場へ出して1000円にでもなってほしいというのが、どうも林業者の考え方のようでございます。そんなみみっちいこと林業者はやめてくださいと(笑)。あの、イギリスの諺にあるんですね。「林業というのは、木を育てる人間というのは、これは王者の仕事だ」という諺がございます。まさに、それは長い目で見て、その仕事をしていかなきゃいけない、ということを意味しているんだと思いますね。これはやはり日本でも同じことです。こんなことを言うとね、また差別用語だといわれますが、貧乏人には山の仕事はできません(笑)。そんな人がやったら、山がダメになるばっかっりでございます。やはり、どんと構えてですね、やっていただく。そうじゃなかったらできないですよこれは。元来、儲からない仕事なんですから。その儲かる時期に来たときに、ドンと儲けるというね。そういうスタンスで取り組んでいただきたいと思うのです。
 倒れやすい方向にどんどん倒していただいて、ただし、道とか谷、ここでは沢といいますね、沢に倒れてしまった場合、それは災害の原因、あるいは道を通る人の障害になりますから、その分だけはしっかりと伐ってですね、取り除いてやっていただきたい。
 それ以外は林内整理はしないでください。皆さん方、林内整理を一生懸命されていましたけれども、これからはしないで下さい。玉伐り枝払いをしない木は急斜面でもすべり落ちることはありません。林外に対して玉伐り枝払いをしない方がだんぜん安全なわけです。
 このような常識的に行なわれている作業の中には、間違いがたくさんあるのです。
 たとえば、みなさんヒノキの葉には裏と表がありますが、どのように植林しておられますか? ヒノキは葉の裏側を谷側に向けて植えないといけないのですが、日本中反対に植えているんですよ。ましてそこへ持ってきて検査に来た職員がですね、ヒノキの葉っぱのつるつるの方を山側に植えていると「こんなバカな植え方したのはだれだー!」と、全部植えかえさせてしまうんです。こんな林業改良指導員が9割以上いるのが日本の林業技術の現状なんです。
 ヒノキを見てください。ヒノキの裏側の葉っぱが、必ず自然に生えた木は谷側を向いています。ヒノキは、光の強い方向に向かって、葉をこのように倒して日を受ける。けっしてこんなことして受けているわけじゃないんです。そういうことも、実はいっぱい間違いだらけとしてやっている。
 ちょっと余談が多すぎました。
 それから枝打ちを半分までしていただきたい。これは枯れ枝は全部落してください。基本的に枯れ枝は全部落す。生きた枝は樹高の半分までまで枝打ちをしてください。で高く枝を打ったとしても、これは6割で止めておいていただきたい。樹高の6割です。枝打ちは6:4、これが上限です。これ以上しないでください。とくにヒノキはしないでください。時期が悪いとやはりちょっとした干ばつで枯れてしまいます。これがとくに1/3になりますと、枯れる確立が非常に高くなります。私どもが指導してまいりました地域でも、私がいなくなった時期からどんどんエスカレートいたしまして、樹高の半分で止めなさいよ、6割が限度ですよと言っていたにもかかわらず、感覚でやりまして1/3どころか1/4しか残さないような枝打ちをしてしまった。今年、春先いま、どんどん枯れていまして、2haの山がまっかっかになってしまいました。「なんで枯れたんだろう」と一生懸命騒いでいる。「バカヤロー」といって私は怒ったのですが。
 必ず、枝打ちをするときも、高さを測って、この4mの棒で高さを測って、枝打ちをする6割という高さをしっかりと測って、やっていっていただきたい。感覚では決してやらないでいただきたい。皆さんの感覚なんてまったく当てになりませんから(笑)。ぜんぜん私、信用しませんからね。
 それから、作業効率を上げるために、いい木を残す「選木」と、伐るという「伐倒」の作業を同時にやろうとする。これも、慣れれば慣れるほどやるんです。やるんですが、実はこれほど作業効率が悪いことはないんです。人間、選んでいる時間、「いいかなー、悪いかなー」と悩んでいる時間は非常に長い。チェーンソー入れて伐る時間なんか1分ですよね。1分もかからない。ところが、こう悩んでいる時間というのは非常に長い。だから選木というのは必ずまとめて、全部の山を印をつける、テープで印をつけるというのをまとめてやっていただきたい。それから、もうつけた後はですね、何も考えないで伐る。この方がはるかに作業効率が上がります。
 そういう作業効率を上げる組み合わせによって、いま申し上げたように、私どもの地元ではですね、作業班の所得はどんどん上がっている。作業効率は全体として上がっている。それは、間伐だけじゃありません。枝打ちもそうですし、草刈りもそうです。あらゆるところでそういう積み重ねをした結果としてこう上がっていっているわけです。そういう、常識的にそうすればいいと思っていることを、全部私は変えていっているんです。今日は「間伐」しかお話できませんが。そういうことによって、おそらくいまの作業というのは、私は半分で済むと思っています。皆さん方が、やられている作業のやり方というのは、やり方を変えるだけでですね、作業量は50%程度に減らすことができる。1/3にすることをお約束したとしても、私は絶対請け負いができます。私が取り組んだ中では50%まで落ちていますから、1/3というのは皆さんがたのところでは必ず、年間通してですよ。それは作業の組み合わせとか何かいろんなもの全部やれば必ずできます。これだけ木が売れなくなっているときですから、そういうことを真剣に考えていただきたい。
 もう本当にですね、林業技術はムダのかたまりです。明治の林業技術と今の林業技術、どうでしょう? 何の進歩もありません。もう、かえって退化していると考えていい。明治の林業技術が延々と生きてい所が1ケ所ございます。日本で1ケ所。どこかといいますと、伊勢神宮の宮域林でございます。あそこの伊勢神宮の宮域林の木材生産は悪い木材生産してますか? あの伊勢神宮の遷宮に使う、20年に一度使うあの材をいま一生懸命生産しおります。すばらしい木です。あの生産技術というのは明治につくられた技術でございます。私が申し上げているのとほぼ一緒でございます。密度管理もほぼ一緒でございます。若干ちがいますけど、ほぼこれと同じでございます。ぜひ、そこへ戻っていただきたい、ということですね。

 次に、もうどうしようもないという線香の山、これはどうしようか? これを話しなきゃ、私ここに来た意味がないわけでございます。そこにも書いてございますし、それから大内さんにつくっていただいております、その『新・間伐マニュアル』の6ページを開いてください。これを見ながらお話を聞いていただければ結構でございます。
 「巻き枯し間伐」という名称です。形状比がですね、伐る前の平均形状比が85、伐った後の平均形状比が80以上のようなとき。まあ伐る前はどうでもよいのです。伐った後の形状比が80以上の山というのはやっぱり折れやすいですね。とくに疎の状態にしますから、風が吹いても揺られます。雪が降っても1本ぽつんと立っているような状態ですから、ぐにゃっと曲りやすい。ということで非常に折れやすくなりますから、間伐後の平均形状比が80を超えるような山、これについては「伐らない間伐」をしていただきたい。
 間を伐るのに伐らない間伐とは何ごとじゃ?(笑) と思われるかもしれませんが、伐っちゃだめなんです。そういうのはね。伐らない間伐。皆さん方、間伐材を、小さな木の間伐材を山から出されて、街路樹の支柱に使っていただいてますよね。そのために一生懸命間伐材を使っておられる。これからはそういう大きくなった木、山の木の支柱にしようじゃないですか。わざわざ高い金を使って搬出経費をかけて安い木を売るよりも、残す木のためにそれを支柱として使うと、そういう考え方にしていただきたい。
 それは何かというと、伐るべき木を伐らないで「巻き枯し」をしていただく。巻き枯しというのはどういうものかというと、皮を剥ぎ取ってですね、皮を剥ぎ取って水分が上に上昇しないようにして枯らしてしまうことです。
 「地拵え」をするとき、大きな木を切り倒してしまうとあとの片付けが大変なので、巻き枯しというものをよくやります。あれと同じことを間伐でもやろうということです。そうしますと、枯れた木が、残った木の支えとなって、しっかりと10年ぐらいはもってくれます。その間に、残された木は、形状比もしっかりと改善していきますし、木の形も健全なバランスの状態に戻っていきます。ちょうど戻ったころには、枯れた木は静かに倒れて土に還っていく。というわけです。
 「そんな木を残したら、危なくて山へ行けない」という方がいらっしゃいます。山に行く必要はありません。まったく行く必要はありません。私の間伐であれば、少なくとも10年間、そのまま静かに置いてやっていただければいいのです。健全な山に戻ります。そういうやり方をお願いしたい。
 さて、巻き枯しをする方法でございますが、大内さんのこのイラストを見ていただきたいのですけれども、チェーンソーでですね、幹を、皮だけじゃございません、幹に1cm以上チェーンソーの刃が食い込むように、ぐるんとチェーンソーを回してやっていただきたい。これを、20cm以上、間隔を開けて、3本してやっていただきたい。それを確実にやっていただきますと、2夏を越えたときには必ず枯れてくれます。
 これがですね、この方法でやると、私がやると100%なんですが、森林組合の作業班の方にやっていただくと、枯れないんですよ。ちょっと手抜きなんですねやっぱり。「1以上食い込ませてくださいよ」と言っているにもかかわらず、これ、人間が移動しながら回さなきゃ切れません、その移動してつなぎの所がちょっと外れてしまう。あるいは、1cm食い込まずに、皮、薄皮が残ってしまう。わずかでも残ればこれは枯れません。枯れません。それと、この20cmという間隔、これがひっついていても枯れません。たとえば5cmくらいの間隔では、きちっときざみを入れてもこれは枯れないんです。私の経験からいけば20cm以上必ず離してください。こういうやり方で枯らしていただきたい。
 それから、木が細い場合。伐るところの太さが、チェーンソーできざみを入れるところの太さが20cm以下の木では、この方法はやらないでいただきたい。なぜかといいますと、このような木に20cm間隔のきざみを入れますと、風で揺れるとそこからぺきっと折れるんです。ですから20cm以上の木に対してやってください。私も20cm以下の木を何本かやって、よくぺきんと折れて、掛かり木になって、そのまんま残っているのがあります。ですから、私の経験からいけば、やはり20cm以上の木に対してチェーンソーの方法を使い、20cm以下の木については、今の時期は、皮が剥けやすい時期ですね、皮剥ぎがしやすいときにですね、直径の7倍くらい、ぽんぽんとね、ナタできざみを入れてもいいし、ノコギリで切ってもいいし、その間をびゅーと剥ぎ取っていただければ、これは確実に枯らすことができます。そういう方法でやっていただきたいと思います。
 これをしますと、極端な間伐ができます。私がやりました間伐でですね、残った木が35%、これは本数率で言いましょう。残った木が35%、巻き枯しをしたのが55%でしたかね。であとは掛かり木になって枯れていたり、倒れかけていたり、という木伐ったのが10〜15%くらい。ここにはテレビがあるようですので、今日宴会が終わったらデジカメで撮ってきた現場の写真をお見せできるかもしれません。しかし極端な間伐をしましても、遠くから見ると普通の山になっています。ところが中に入ってみると「どこに残っている木があるんですか?」というぐらい、全部巻き枯ししている。

 それから、もう1点大事なことがあります。もう時間になりましたので、もう1点だけ申し上げます。これも日本の林業の常識から外れます。
 目的をもって「柱材」を生産していて、やっておられる方はそれでやっていただければいいです。ただ、間伐をした木がもったいないから、材として出して、製材所へ持っていくんだというような木であれば、木の採材は「末口」からしていただきたい。ということです。<ホワイトボードに絵を描く> 
 今もうそうですね、木というのはどんどん売れなくなってきておりまして、製材所でもですね、野焼きができなくなっております。製材の木端を燃やして処分するということが非常に難しくなってきています。ということは製材の木端がより少ない状態にしてえやることが必要です。そのために、山で「末口」を決めて採材をしていただきたい。
 たとえば、この辺りでは3寸5分が主流なんでしょうか。3寸5分の10.5cm角の木であればですね、<ホワイトボードに絵を描く> 末口は、この直径は15あればいいわけですね。1.414ですから。15cmですが、山では皮をつけたまま直径を測りますから、この分がまあ1cm見たとしましても、16cm。これ16cmのところでもう山で伐ってしまう。根元から採材するんじゃなしに、もう山で16cmのところから伐ってしまう。で、ここから根元に向かってまっすぐなところ、これが3mしか採れなければここで伐る。4m採れれば4m、6m採れれば6mのところで伐る。こういう採材をすれば、製材所でもゴミというのは非常に少なくなるわけですし、市場へ持っていったときに、はい積みするのにどうでしょう? 何も考える必要がない。長さだけ考えて並べればはい積みできてしまう。
 どうでしょう、皆さん方のやり方というのは、普通は根元の方から採りますからね、「はい、これは16cm、これは18cm……」1本1本末口に書いてですよ、市場にはい積みするわけですけれども、そういう手間もですね、やはり少なくしていく。どんどんムダをなくしていくということを、やっていただきたい。
 太いものを持っていったってゴミでしょう。小机さんそうですよね(笑)。こんな小径材ね。で、大径材についてはそんなことしろとは私は申し上げません。胸高直径が24cmとか26cmの木以下の木、これは間伐材でしか採れないわけです。いい材なんて採れっこないわけですから、そういうものは末口を決めて採材していく。もうゴミは全部山に置いて、山の肥料として、また残った木の再生に使わせていただく、そういうことを、できるところからやっていただきたい。これも日本の常識とちがうことを申し上げます。
 
            ☆    

 まあ、以上が今日私がお話させていただきたかった内容でございます。まあ、私は一つの例としてね、申し上げていることでございまして、私のやっていることを、明日から皆さん全員やってください、なっんていうことは決して申し上げません。この中で使えるところがあれば、一つでも結構ですからぜひ利用していただきたい。半分使えるのであれば半分でも結構でございます。ちょっと実験をですね、やっていただきたい。
 今日、明日はですね、小机さんの山を、少しお借りしまして、やらせていただきたい。このように思います。以上でございます。何かご質問があればお聞きしたいと思います。

司会:ありがとうございました。いまご質問を、という話がありましたが、夜のほうに時間を用意してございますので、実際山に入って、帰ってきてからまた質疑の時間をとらせていただきたいと思います。
(中略)それでは鋸谷さん、どうもありがとうございました。■
 




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