★環境学習の一環で都内の高校で講演を依頼され、東京日の出町「きりんかん」の杉村さんとペアで行ってきました。そのときの大内の講義録をここに収録します(大意を変えず、一部修正と加筆を加えています)。
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杉村さんご苦労様でした。では、バトンタッチして、・・・私は大内正伸と申します。よろしくお願いします。先ほどご紹介いただきましたが、ここ五日市(現在はあきる野市)のお隣の日の出町というところでイラストレーターという仕事をやっています。ちょっと、座って話させていただきます(着席する)。 僕は4年くらい前にこちらのほうに引っ越してきました。それまでは都心で十数年アパート生活をしながらイラストを描く仕事をしてきました。まあ、イラストといってもいろいろあるんですけど、僕がやってきたのはおもに本に挿絵を描いたり、イラストマップを描いたり、他にもデザインや文章を書く仕事もしています。そんな様々なメディアで仕事をしてきたのですが、4年くらい前にこちらに越してきて、山に囲まれた自宅で仕事をしています(注:現在はさらに群馬にて、本格的な山暮らしを始めている)。なぜ越して来たか? というとですね、僕も杉村さんと同じように昔から山とか自然が大好きで、僕も高校生の頃、チョウを採っていたことがあるくらいなんです。それから釣りも大好きでしたし、社会人になってからは登山なんかをずっとやっていました。それで、将来は山の方に住んでみたい、暮らせたらいいなあという夢がずーっとありまして、たまたま4年くらい前に中古の家が見つかりまして、ここに引っ越してきたわけです。 まあ「都会が大好きだ」という人も大勢いると思うんですね。とくに君たち高校生ぐらいの人たちは、都会に憧れて、ここに居ることが「何かつまんないな」と思っている人もいるかもしれないですけど、僕は逆なんですよ。都会の生活もだいぶ長かったけど、山は本当にすばらしいと思っているわけです。 じゃ「山」って何がいいのか? というとですね、たぶん皆さんは解らない人がいっぱいいると思うんですが、まず花が咲きますよね。美しい花が、ね。とくに日本の山というのはすごく植物の種類が多いわけです。これも植えられた木が手入れが遅れていると、他の植物がまったく何も生えない真っ暗な山になってしまうのですけど、人が生活の中でいろいろ作ることで山を活用したり、それから本当の山の原生林、人がまったく手を入れていない山というのは、非常に植物の種類が多くて、いろんなきれいな花がいっぱい咲いてますよね。とにかく日本の山はとても植物の種類が多い。 で、植物が多いということはどいういうことかというと、それに依存する昆虫なんかも非常に多いわけです。日本はまた、とても昆虫に恵まれている国なんです。先ほど杉村さんが虫が好きだということで自分で採ったチョウの標本を見せてくださいましたけど、たとえばチョウの種類も、みなさんは飛んでいるチョウを普段なにげなく見ていて、だいたい5〜6種類はいるのが解るかな? という感じだとおもうんですけど、日本には200種類以上のチョウがいるんです。これは山に行って、自分で観察して、網で採ってみないとなかなか解らない。でも採ってみるとですね、非常に美しいチョウがいっぱいいるんです。 まず、そのような「美しいものが山にはある」ということですね。それから、山に行くと必ず川があります。これも日本の山の大きな特徴であると思います。川ってどこにでもあるわけじゃないんですよ。この地球上には、山に行っても川が流れていない山、というのもいっぱいあるのです。日本はとても恵まれているんです、そういう意味では。 川があれば、川には必ず生物がいますよね。で、日本にはイワナとかヤマメとか渓流の美しい魚がいて、それはまた食べても非常に美味しい魚です。僕は昆虫採集もやってましたけど、釣りも大好きで、渓流に行ってイワナ・ヤマメを釣ったこともあって、大学の4年間はですね、釣りがしたくて東京の大学は1校も受験しないで、全部東北の大学を受けて、福島県の郡山というところに4年間いて、授業をサボりまくって釣りばかりやっていた、というとんでもない学生だったんですが(笑)・・・まあいま自分の仕事の中にそんな思い出がとても活かされているのですけど。 僕は、そんなふうにチョウも魚も大好きなんです。それから、もう一つ、山というのはいろんな生物がいるだけじゃなくて、こういう木材(紙芝居の木製フレームを触る)を生み出してくれる木が生えていて、それからいろんな匂いがありますよね。都会にはスモッグの臭いしかありませんけれど、山に行くと草花の匂いですとか、木の匂いがあり、苔の匂いがあったり、水の匂いが流れてきたり、自然のいろんな匂いがあります。 それから、いろんな音がする。川のせせらぎだとか、鳥のさえずりなんかもそうですね。鳥もまた、いろんな種類の鳥がいて、観察するとチョウと同じように日本にはたくさんの鳥がいるんですけれども、またさえずりも、音も、いろんな鳴き声を聞かせてくれる。それから、虫の音(ね)なんかもあります。そんな、いろんな音が山に満ちている。 で、山は何がすばらしいかというと、これらをタダで生み出してくれるということです。自然の中で、お金を取らないですよね。山は、自分で成長して、常に生死をくり返して、僕らにさまざまな美しいものを見せてくれる。そのことで、お金は一銭も取りません。僕らは映画館に行って映画を観れば、映像を観ればお金がかかるし、テレビだって受信料を払っているわけですけど、山はすべてタダです。 昔の人たちは、そのタダの山からいろんな工夫をして、木材や燃料を得たり、落ち葉を畑の肥料にしたり、そうやって暮らしてきたわけです。先ほど杉村さんが、高度成長期の'60年代から山の使い方がまったく変ってしまって、エネルギー革命で山との断絶が始まってしまった、それで山が荒れているという話をしましたけれども、ここ五日市も、昔は「木材」と「炭」の一大集積地でしたね。宿場町としてとても発達した町で、山には方々に炭焼さんが入ってました。それから、植えられた木が木材のために伐られると、この秋川を筏(いかだ)で流して、多摩川に入って東京湾まで運んで、木場(きば)というところに上がって、それで江戸の町を造ったり、そんな長い歴史があったわけですね。 いまではこの町で木炭を焼いている人はほとんどいません。僕は「火鉢(ひばち)」が大好きで、冬は家では火鉢を使っているんです。火鉢っていうのはみなさんもう知らない人もいるかもしれませが、こんな(手で大きさを)陶器の中に灰が入っていまして、その中に火のついた赤い炭を置いて、それで暖をとるというものです。その炭をここに引っ越してきてから五日市で買おうと思って、こちらのプロパン屋さん燃料屋さんを探しました。そうしたら2軒ばかりあって、そこで売っていたんですけど、その袋をみたら岩手県で作っている炭なんですね。もうこの炭の一大集積地であった五日市でも、自分のところで焼いている炭はまったく扱っていないのです。 さて、この辺でいよいよ紙芝居に移りたいと思います(紙芝居の扉を開ける)。これは僕がつくった紙芝居なんですけれど、まあ僕の「絵を描く」という特技を活かして、山のこと林業のことを知ってもらおうとつくった『むささびタマリン森のおはなし』という紙芝居です。まずこの紙芝居をつくったワケを少しお話しましょう。 先ほどお話ししたように、僕はチョウや魚が好きですから、それらが棲めない荒れた山とか人工林というものは嫌いだったんですね。なんにも生物が棲んでいない、真っ暗で鳥もなんにもいない人工林、スギ・ヒノキの山というのは大嫌いだったんです。ところが8年くらい前に「森林ボランティア」という世界で、東京西多摩の青梅の山に初めて植林の体験で入った。森林ボランティアというのは、休日を利用して山仕事を手伝うというボランティアのことです。それを始めまして、それで実際に山に入って様々な山仕事を手伝ってみて、林業のことを勉強していたら、山のことはいろいろ知っているつもりだったのに、林業のことはまったく知らなかった。そういう自分に気づいて愕然としたのです。 僕のようにこれだけいろいろ山を歩いている者ですら、何も知らないのだから、まして一般の人は、スギ・ヒノキの山の手入れの大切さとかその方法とか、まずぜんぜん知らないだろうなと思った。そこで、この紙芝居をつくって子どもたちとか、それから子どもたちだけじゃなくて大人の人も何も知らないのだから、紙芝居を見てもらっているのです。いま僕は、全国を回って紙芝居を見てもらうというような活動もしているのです。 で、紙芝居だけじゃつまらないかなと思って、ギターの弾き語りでテーマソングを作って歌ったりもしているんです(ギターを取り出す)。かわいいギターでしょう(ちょっと弾いて音を出す)。これはね、旅行用の小型ギターなんです。僕は山登りが大好きなので、このギターをですね、ザックの後ろにしばって山の中に分け入って、焚火をしながらギターを弾くのが僕の愉しみだったりするわけです(笑)。 では紙芝居『むささびタマリン森のおはなし』を始めます。まずはテーマソングから聴いてください。 〜〜オープニングテーマ「むささびタマリン紙芝居のテーマ」を歌う〜〜 〜〜紙芝居始まる〜〜
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3)ところが、下に降りてみるとガッカリしちゃう。君たちがポイポイ捨てたゴミがいっぱいだァ。それからせっかく植えた木が雪で折れちゃったり、つる草に巻かれて助けを求めてる。ほかの木もいっぱい生えてきて通れないところもあったり、奥のほうは暗くて草も生えていない。なんだかさみしい森だね。これじゃぼくたちもエサを探すのが大変だ。 |
4)どうしてこうなっちゃったのかな。ぼくはきこりのおじさんに聞いてみることにした。 「ああ、タマリン。わしらもきちんと木を育てたいのじゃが、近ごろは木で家をつくる人が少なくなって、せっかく木を育てても売れないのじゃ。それに、わしらも昔はガスや電気が無かったから、マキでごはんを炊いたり、落ち葉を畑のひりょうにしたり、森の恵みを利用していたのじゃが、いま、山に入る人はめっきり少なくなってしまったなあ」 「ふーん。ところで奥で草を刈っている人たちはだれ?」 「あれは、町からやってきた人たちじゃ。日曜日だけ森の手入れを手伝ってもらっているのじゃ」 「えーっ、それってどんな人?」 |
5)「こんな人だよーっ!」 「ふわーっ、町の人の作業着姿ってなんだかカッコイイって感じ。道具も本格的だね。頭のへんな帽子は何ですか?」 「これはヘルメットよ。山の作業は刃物を使ったり、すり傷をつくったり、虫にさされたり、けっこう大変だから。でも森づくりは楽しいこともいっぱい! なにしろ木を育てるって本当にステキなことなんだから」 「ふーん。ところで木を育てるって、森の手入れって、どうやるのかな?……」 |
6)「かんたんに教えるわね。──小さな苗木を、クワを使って山の斜面に植える。これを“植林”っていうんだけど、夏になるとまわりに草がいっぱい生えてくるから、それをカマで刈り取ってあげるの」 「下刈りとか、下草刈りとかいうやつだね。なんだか暑くって大変そう」 「そうしないと、草に負けて木が枯れちゃうからね。木が大きくなったら“枝打ち”といって下の枝を落とす作業があるわ。ハシゴを使ったりして木に登るから、ちょっとスリルがあるけど、慣れると楽しいわよ」 「これならぼくにもできそうだ。木から木へ飛び移ったりして」 「それから木を伐って、間引く作業があるわね。大きくなると、となりどうしの葉っぱがぶつかっちゃうから」 「ふーん、木を育てるって、いろいろ大変なんだな。でも、いま、木って売れないんでしょ? 木の家なんてもう古いのかなあ……」 |
7)「そんなことないわよ。私は木の家に住んでいるけど、木ってあたたかくて、やさしくて、とてもいい感じよ。昔はクーラーも使わず、みんな木の家に住んでいたんだもの」 「へ−っ、この木が森からやってきたんだね。なんだかぼくも木のおうちが欲しくなっちゃったな」 (ここで残り半分を引く) アッ、いっけねー、ぼくのうちは最初から木のほら穴なのであった。フムフム、本を読んで調べてみると、<東京の木で家をつくる……>そんなグループの人たちもいるのであった。そういえば、おねえさんはこんなことも言っていた。 「ねえタマリン。この家をつくったあと、私たち木を植えに行ったのよ。この子がおじいちゃんになるころ、その木がまた次の家に生まれ変わるようにって……」 |
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〜〜(拍手)〜〜 ありがとうございました。最後にエンディングテーマがあるので、それも聴いてください。ところで僕は、絵はプロですけど、歌はしろうとですから、あのあんまり文句はいわないで聴いてくださいね。でもギターが大好きで、自分で曲も作ったりして、これも僕が作った曲で「むささびタマリン森のうた」という曲です。 〜〜エンディングテーマ「むささびタマリン紙芝居のテーマ」を歌う(大きな拍手)〜〜 なかなかいい歌でしょう? 自分で言うのもなんですけど(笑)。えーとですね、この後に、これで終わりじゃなくて最後におまけの画面というがあるんです(紙芝居を引き抜いておまけの画面を見せる)。これを皆さんに見てもらって、紙芝居は本当におしまいです。
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さて、これは東京の地図ですけれど、東京というのはこんな細長いかたちをしていますよね。日本で一番大きな町、首都がある東京都なんですけれど、西側の1/3はちゃんとしっかり山があって、いま僕らがいるところが武蔵五日市、ここですよね(地図の画面を指差す)。ちょうどこの五日市あたりから深い山が始まるわけですね。この東側の薄むらさきで塗ってあるところは大都会のビル群で、まん中あたりの黄色く塗っているところは、昔は雑木林とか畑が多かったところですが、いまは住宅地になってしまいましたね。今でも少し畑がありますけど。 そしてこの西側の緑色のところが山──森林です。山というのは傾斜がありますから、畑や宅地に利用できないんですね。だから、木を育てて、ずっと利用してきたわけですけれども、先ほど人工林と自然林と、二つの山の話をしましたけれど、いま僕がタマリン紙芝居でお話したのは、人工林といって、人が植えて育てる、この辺りではスギ・ヒノキの山のことです。ではみなさん、その人工林というのはどのくらいあると思いますか? 日本の全森林が100とすると、その中で人工林というのはどのぐらいあると思いますか?(前の席の生徒に問いかける) だいたい、どのぐらいだと思いますか? 2割くらい?(生徒うなずく) これは、面積を集計してみると全国の森林のうち4割をちょっと超えるくらい、人工林があるのです。半分まではないですけれど4割はあるのです。 では、東京の西多摩の山はどうでしょうか? 日本の全森林では100のうち40でしたけれど、西多摩の場合はどのぐらいあると思いますか? 実は、もっと多いんです。100のうち60を超えるくらい人工林がある。半分以上が人工林なのです。みなさんも今日の帰り道に、周囲の山を見渡してみてください。いまちょうど新緑の季節ですから、自然の広葉樹の山というのは、黄緑色のと柔らかなフワッとした色がついてモコモコしてますけど、人工林のところはちょっと暗い深緑色で、ずーっと一面カーぺットをひいたような感じになっていると思います。それらがパッチワークのように山に模様を描いているのが見れるでしょう。その深緑色が、奥の方の山ではかなり多いのが解ると思います。 では、なぜ東京の山で人工林が多くなったか? というとですね、昔はトラックなんて走っていませんから、太い木はみんな川を筏(いかだ)で流して運んだんです。この秋川とか多摩川とかを筏でずーっと流してここまで運んだんです(地図の東京湾を指差す)。そうして、江戸の町で使っていたんですね。ですから、木材の消費地がある近くの山というのは、どうしても人工林が発達するわけです。江戸の町は人口が多くて家屋がたくさんあった。そして大火の度に大きな木材需要があった。また、戦後の復興期には住宅用木材ばかりでなく、その仮設工事に使う「足場丸太」もたくさん必要でした。いまではかえりみられない細い間伐材も貴重な材料だった。人工林の樹種、スギやヒノキは成長が早くて育てやすく、幹がまっすぐに太くなり、木材として非常に優れた樹なんです。そういうわけで、そのような木がたくさん植えられたのです。 面白いでしょう? 「東京に山があるのか?」って普通は思いますよね。ちゃんと山があるし「林業なんかやっているのか?」って誰しも思うけど、実は林業は昔から盛んなところなんです。ところが、その植えられた人工林がいま、手入れが遅れて困っているという現状があるわけです。それはなぜかというと、先ほどお話したように木が使われなくなってしまった。たとえば鉄パイプだとかプラスチックだとか、代わりの便利な素材がたくさん出てきた。それから石油やガスを使うようになって、燃料としての木もいらなくなった。外国から安い木材が入ってくるようになった、ということもありますね。木材の輸入自由化によって、値段(全体のコスト)の安いほうの木を使うようになったのです。 でも山というのは、木材を生み出しているだけじゃないんですね。紙芝居でみてきたように、いろいろな生物、昆虫だとか、タマリンのようなムササビも棲んでいるし、そんな動物たちのすみかでもある。それから、山は「水」を生み出してくれますよね。僕らの飲料水はほとんど山から来ているわけです。それから、森が荒れると「山崩れ」を起こしたり、大雨が降れば洪水、日照りが続けば川が涸れたりする。だから、山の手入れというのはとても大事なことなのです。 町に住んでいても、なんらかのかたちで僕らは山の恵みをいただいているのです。「山は海の恋人」というという言葉を聞いたことありませんか? 海の魚も、実は山が育てているというお話なんですけれど、山の木の落ち葉が腐葉土になって、それらが川から海に流れていく。それを養分にプランクトンが増え、それを餌にいろんな魚介が育っていくという。山と海がつながっていた、それに気づいた最近の漁師さんたちが、いま山に木を植えに行ったりもしているのです。 ですから、山というのはあらゆるものの原点だと思うのです。今日のこのテキストをいただいて、実はとても物々しいタイトルにびびってしまったのですけれど──「地球環境ガイダンス」なんていう物々しいタイトルなんですけど、しかし地球環境を、環境というものをつきつめていくと、必ず「山」にたどり着くのです。森林というものはやはり原点だと思うのですね。あらゆる物の、ね。海ともつながっているし、水の循環の原点でもあるわけですから。 みなさんは、せっかくこの武蔵五日市という山に近いところで学んでいるわけですから、ぜひ山にも感心を持っていただいて、できれば山に入って汗を流して、いろんな木の匂いだとか、土の香りであるとか、そんなものを確かめてもらいたいな、と思うのです。 以上で、僕の紙芝居公演は終了です。ありがとうございました(大きな拍手)。 (ここで5分休憩) ★
いま『むささびタマリン森のおはなし』という紙芝居をやりましたが、これはまったく林業とか山のことを知らない人に向けて僕が創った作品ですけれど、この中には山仕事を手伝ったことがあるとか、家で山をもっているというような人もいるかもしれないし、先生方もちょっと興味があると思うので・・・。 僕はいま2つの本を出しているんですが、ひとつはこの(本を掲げる)『図解 これならできる山づくり──人工林再生の新しいやり方』という本。それから『鋸谷式 新・間伐マニュアル』という、これは林業の技術の専門書です。実は僕はこういう本も書いてまして、森林と環境問題の研究家でもあるんです。みなさんこれから環境学習のなかで、たぶん山に入っていろんな作業をやるということもあると思うので、簡単にもう一度、人工林のしくみと施業の流れを、ここでホワイトボードにイラストを描きながら、みなさんに見てもらいたいと思います。 いま日本の人工林の山はどのようになっているのか? まず、山というのはこのような斜面ですよね(ホワイトボードに絵を描く)。木は、こういう斜面にだいたい植えられていますよね。で、ここにこういうふうに木を植林するわけですね。このぐらいの高さですね。まあ、人がこのぐらいの大きさとするとね。 そうすると、さっき紙芝居でお話したように、植えた木の間に草が生えてくる。この木を覆い隠すくらい草が生えてきますから、これをですね、こういうふうに切ってあげるわけです。そうすると、木が毎年成長して大きくなるわけですね。こういうふうに。で、やっと下草刈りをしなくても木に光があたるようになって木がだんだん大きくなります。 ところがですね、これがもっと大きくなると、今度はこんなふうにこ、こんな木になりますね。上からみると、これが幹だとします。葉っぱの部分がここにありますね。大きくなると、幹も太るけど、葉っぱをつけた枝の部分も大きくなる。そうするとぶつかる部分が出てくるわけです。こういうふうにね。ぶつかると、陽がまんべんなく当たらない部分が出てきます。 そうするとどうなるか? 下のほうから枝が枯れてくるんです。光が当たらないから、生きた葉っぱがなくなってきます。それが度を越すと、緑の部分がこの木の先端だけ。そして幹の下のほうの枝は、みな枯れ枝になります。こういうふうに。わかりますね、枯れるというのは、緑の葉っぱが茶色になってしまうのです。 さて、こうなると先端部は密閉状態ですから、林内に光が差しません。上がぎゅうぎゅう詰めですから、山の中は真っ暗です。最初は、下草が生えて植林された苗木が被い隠されるほどの、草の勢いがあったものが、どうして暗くなると生えてこなくなるのか? なぜかというと、光が遮断されてしまうからです。植物の成長にとって欠かせない要素が3つあります。「養分」と「水」と「光」です。どれがなくても植物は育ちません。中にはヒカリゴケであるとか、サボテンであるとか、特殊な条件下で育つ植物もありますが、基本的に普通の山では「光」がないと植物は生きていけません。 そうすると、林床に植物がなくなると、ここがただの土だけになってしまうんです。さて、このような山になるとどんなことがおきるでしょうか? 光が遮断されても、雨は容赦なく地面に落ちてきます。大雨になると、雨が地面を叩くわけです。そうすると、このような急傾斜の山では、土がどんどん流れてしまいます。下のほうに。 拡大図を描くと、木の根っ子というのはこういうふうになっているのですね。ここに土があるわけですね。ここに草とか広葉樹が生えていると、これらが毎年葉っぱを落したり、昆虫の死骸があったり、鳥が糞を落したり、それらが豊かな土をつくる上に、草が生えていれば雨でも土がそれほど流れることはありません。草が雨を受け止めるクッションになるし、ミミズや微生物の多い豊かな土は、雨水をスポンジのようにたくわえるからです。 林内が暗くなり草が生えなくなると、これらの土が流されて、木の根っ子がむき出しになって、石ころだらけの山になってしまいます。土が流れても石は残りますから、小石がいっぱい浮いた状態になります。そうすると、とうぜん木の成長が悪くなるし、大きな台風のときなど、ここの根っ子の支持力が弱いですから、根こそぎ木が倒れてしてしまったりする。 このような状態をずっと放置しておくと、枝がどんどん枯れ上がり、土が流れて木の太りも悪くなり、こんなふうになってしまいます。こんな山、みなさん見たことありますか? 実は、日本の山奥に行くと、こういう山がいっぱいあるんですよ。もう生きている葉っぱは、樹高の1/4もなく、木の先端にしかついていない。しかし、外見上は緑色の山肌を見せているから、一般の人はその内部の状況に気づかない。人工林というのは適期に「間伐」──間引きという作業がどうしても必要なのですが、それを怠るとこういう山になってしまうのです。 こういう林を僕らは「線香林(せんこうりん)」と呼んでいます。お線香が立っているような状態に見えるからです。わかりますか? お仏壇の線香立てにお線香がたち並んでいるような感じです。こういう山は、もう間伐をしても残した木が折れてしまったりする。ぎゅうぎゅう詰めの全体で支えあっている状態なので、強度の間伐をすると、残した木がひょろひょろと立っている状態になる。そうすると、光が入って下の広葉樹が育つ前に、雪や風で折れてしまう。 こんなどうしようもなくなった人工林というのが、いま日本の山にたくさんあるわけですね。道がない奥山にも、このような荒廃人工林ができてしまった。それで僕らがいま提唱しているのは、これを救うために「巻き枯し間伐」といって、これを立ち枯れにするんですね。伐る間伐じゃなくて 枯らす間伐です。枯れると葉っぱが落ちで空間ができますから光が入ってくる。それから、枯れた木というのは水分が抜けて、風や雪でもしなりにくいのです。ですから、残した木の支えにもなってくれます。 これを枯らすには、薬品なんか使う必要はありません。木の皮を剥いてやればいいのです。そうすると、2夏を過ぎる頃には完全に枯れてしまいます。いま、日本の人工林をなんとか救うために「巻き枯し間伐」というのを僕らは提唱して本にも紹介し、いま全国各地でこの施業法が始まっているところです。 いま、最も悪い(荒廃した)人工林と、それを救う方法をお話しましたが、では次に、これから私たちが目指すべき人工林、理想的な人工林というものはどういうものか? というお話をしましょう。いままでの人工林施業というのは山を「木の畑」として育てていたんですね。木の生産工場のようなものです。ひとつの山から効率よくできるだけたくさんの木を収穫するという考えで林業をしていたわけです。 しかし、これからは環境のことも考える林業でなければいけないし、木材ももっと太いものを山から出すようにしなければならない。これからはこういう山づくりです。太い木が山の中にこう生えている。下には広葉樹が生えている。いいですか? 人工林ですけれど、下にはしっかり広葉樹が生えている山です。そして中に残っている木は、いい木だけが残っている。 太い木材というのは使い道が多いんですね、細い木材は柱くらいしかとれません。それから製材したときに体積の半分はゴミになってしまう。昔はこれも焚きものに使ったりしたのですが、いま需要がありませんからね。ところが太い木材だと上手に製材すれば板や梁など様々な部材が採れ、ゴミの部分が少ないのです。しかも芯の部分が大きい。この赤芯の部分というのは木材として非常に耐久性に優れているのです。 このような太い木をつくるには、間伐をして育てる木と木の空間を開けなけれなならない。枝葉が茂る空間の余裕が必要なのです。そうすると、必然的に中に広葉樹が生え育ってきます。目的の木を伐採したとすると、さらに大きな空間ができますが、そうすると間に育っていた広葉樹が一気に伸びて、この広葉樹がまた山をしっかり守ってくれる。 先ほど、山にはいろんな生物がいる、というお話をしましたけれど、一番大事なのは人間の生活を脅かさない、ということですよね。崖崩れとか、水がなくなってしまう。あるいは洪水や土石流。これはどうしようもなく大変なことなのですから、まず山の土が豊かで木がしっかり生えていること。光が差し込むこと。これが人工林の山には大切なのです。 間伐で光を調節することで人工林をつくっていく、環境的ないい人工林をつくっていく。世界じゅうを見渡してみても、間伐をして間を開け、空間をつくるだけで、自然に草木が生えて旺盛な成長をみせる国は、実はとても稀なのです。日本は本当に恵まれた国なのです。ですから、上手に林業をしていけば、とてもいい山がつくれるし、自然の力をうまく利用して木材も採れるし、生き物の棲む山に復活させることもできるのです。 戦後のエネルギー革命と、関東大震災、第2次世界大戦による戦災、様々な要因が重なって、山は伐られ、植えられ、放置され、いま山というのもが置いてきぼりにされてしまいました。たとえば、農業というのは1年で勝負できますよね。植えたダイコンは1年で収穫できる。ところが、林業というのは、最低でも40年から50年はかかるわけです。こういう仕事って他にないですよね。自分が植えたものが、自分の代で収穫できないかもしれない。 しかし、林業とはもともとそういうものなのです。林業でお金を儲けようと考えることが土台無理な話なのです。考えてもみてください。40年も50年もかかってやっと収穫できるもので、みんながみんな儲かるはずがないのです。戦後の復興期のような、ある特殊な時期にバッと儲かる。しかし、それは時代が儲けさせたのであって、林業とは恒常的に商売が成り立つ仕事ではない。もともと林業というものはそういうものだと思うのですね。 しかし、山は偉大な環境をつくって僕らに様々な恩恵を与えてくれます。先日、僕は群馬県の山で美味しい山菜やお蕎麦をご馳走になりました。タラノメ、フキノトウ、アケビの新芽、本当に美味しかった。蕎麦を打つ水、茹で、洗う水も、山から来る水晶のような沢水です。それらは栽培しているものではありません。お店で買ったミネラルウォーターでもありません。山が勝手に育ててくれたものなのです。これはある意味で凄いことだと思うんですね。 ただ木を生み出すだけではなくて、このような環境的な山になれば、いろんな楽しみを僕たちにもたらしてくれる。そんな、新しい山づくりの提案もしているので、ぜひそんなことも知ってもらえたらと思います。 以上、少し専門的な話になりましたが、時間も来ましたので、これで終わらせていただきます。ありがとうございました(大きな拍手)………★ |
▼後日、担当のO先生から **** ◆杉村さんの話と、つくったおもちゃなどを見て、 ◆山が目が届かないところでだんだんと死んじゃっているんだなと思った。 ◆最初の授業にしては楽しかった。唄うのがうまいし、絵はうまいし、 ◆木の大切さ、木の性質、今日それを学べてとてもよかったです。 ◆二人の話を聞いて、森の良さ、大切さがよく分かりました。あと紙芝居が面白かったです。テーマソングがすばらしい。 ◆森をそだてるのは時間がかかって大変です。 ◆森林は人間にとって、とても大切だということが分かった。 ◆人間や生き物にとって山は大切なものなんだと思いました。 ◆太くて丈夫な木を作るのには人間の苦労が必要だと思った。 ◆植林(造林)には四つの行程が必要なことが分かった。 ◆「間伐」という言葉と意味を覚えた。 ◆人工的に作られた木(森林)と、自然に育った木の違いを知ることができた。 ◆紙芝居が上手※だった。歌もうまかった。(※教師コメント:語りがすっかりその世界にはまっていましたね) ◆紙芝居で、森についてのことがよく分かった。下の方の枝を切るということを初めて知った。 ◆イラストレーターなのに紙芝居で演技したり、ギター弾いたり、歌ったりOPよりED※の方がノリがあるし、長い。 ◆東京にはやっぱり森林は少なかったです、五日市辺が多いなぁーって思っていました。 ◆歌が良かった。あとふわふわしたきれいな緑の葉っぱ※がいっぱいあるところに行きたい。 ◆タマリンはむささび。 ◆タマリン。木が好きなんだなぁと思った。 ◆蝶とタマリンがよかった。 ◆環境の元は森林なんだということが分かりました。 ◆大内さんの森などにたいする気持と、「こうすればどうなる」とか難しかったけど、大変ためになる話を聞けました。 ◆眠かったけど、よく聞けたと思う。体験活動がちょっと楽しみ。 ◆私も杉村さんのように好きなものにのめりこみたいと思いました。 ◆たくさんの話を聞けて良かった。すごい分かりやすかったです。 ◆最近では家などにも木を使わないことが多いけど、やっぱり人間は自然の中で生きているんだから、 ◆人工林の山が(多摩に)6割もあるとは思わなかった。 ◆森がどんどん無くなって悲しいです。木や環境について少し興味が出てきました。 ◆なかなか興味がわかない。よく分からない。 ***** 基本的に( )は教師による補足 |